先日、税理士の先生とお話しする機会がありました。
そのときに出たのが、「試算表に押す認印が欲しい」というご要望です。
印章店としては珍しいオーダーではないのですが、背景を聞いてなるほどと思いました。
今回はその話をご紹介します。
試算表には税理士の名前が載らない

決算書(貸借対照表・損益計算書など)には、作成した税理士の署名が入ります。
しかし試算表はそうではありません。
試算表とは、月次や四半期ごとに会社の収支状況をまとめたもの。
経営判断の基礎になる大切な書類ですが、法律上は「税務書類」ではないため、税理士の署名・押印が義務づけられていないのです。
つまり、誰が作ったのかが書面上わからない——それが試算表の実情です。
AIで試算表が作れる時代に
最近では、会計ソフトやAIツールの発展により、専門家でなくても試算表に似た書類が作成できるようになりました。
そうなると、取引先や金融機関から「この試算表、本当に税理士さんが確認したものですか?」と問われる場面が出てくるそうです。
書面だけでは、その信頼性を示す手がかりがないのです。
だからこそ、「自分が関与した書類である」という証として、認印を押したいというニーズが生まれています。
税理士法と押印、その変化
2021年(令和3年)の税制改正により、税務署など行政機関に提出する税務関係書類については、原則として押印が不要となりました。
確定申告書や税務代理権限証書への押印も同様です(税理士法第33条の改正)。
ただし、これは行政手続きに限った話。
民間の契約書や取引書類における押印は、引き続き広く行われています。
そして試算表はそもそも税務署に提出するものではありません。
だからこそ、押すかどうかは税理士自身の判断と意志に委ねられています。
最後は個人の責任——だから印鑑が意味を持つ

税理士は国家資格者であり、関与した書類に対して個人として責任を負います。
とくに試算表のような法定外書類では、「自分が確認・作成した」という事実を残す手段が限られています。
そこで認印が活きてきます。
「税理士 ○○之印」などと刻まれた認印を試算表の隅に押すことで、この書類に私が関与しましたというメッセージになる。
法的効力よりも、信頼の証としての意味合いです。
最後に
「義務だから押す」のではなく、「意味があるから押す」。
自分の意志で選んで押す印鑑こそが、本当の意味での信頼の証です。
税理士の認印というのは、そんな印鑑本来の価値をよく表しているように感じました。