象牙の印材は「希少」「貴重」とよく言われます。
けれど、どれくらい希少なのかを数字で書いているところは、ほとんどありません。
理由は想像になってしまいますが、おそらく正確に知っている人がいないから。
一般的な象牙の流通は、大手メーカーで分業制で行ったものを問屋などで仕入れ、それが各小売店に流れます。
そのため正確な数字は、どのセクションでもわかりにくくなっているはずです。
対して鈴印では、牙から印材を一本ずつ一人で手でとっている職人に、お願いしています。
そのためある程度の数を掴んでいるため、長年の感覚を数字にしてもらいました。
この数字は、鈴印の象牙オンラインショップにも載せています。
今回は数字の細かい中身よりも、彫り手の私がこの数字をどう受け止めているかを書いてみます。
なぜなら私自身が、希少だと言われても、いまいちピンとこないからなんです。
うがってみてしまえば、セールストークなんじゃないかと。
そのため実際の数字をお伝えすることで、実際に手に渡るみなさまとも、イメージが共有できると思ったからです。
数字をくれたのは、牙を手でとる職人

いま流通している象牙の印材は、ほとんどが電動ノコギリなどの機械で切り出されています。
その中で、今も手作業だけで象牙をとっている職人が、日本にただ一人います。
同業者の集まりに顔を出すうちに出会い、鈴印はそれ以来この方から印材を仕入れてきました。
この職人さんが手掛ける象牙は、もう手に入らないと思っていた驚くほどの高品質のものばかりだったからです。
合わせて、知識と経験値がとにかくすごく、私自身もこの方にご指南いただいております。
ちなみに象牙は、一本一本、繊維の向きも硬さのムラも違います。
どの等級が取れるかは、牙を切ってみるまで分からないそうです。
長年牙を切り続けてきた人の感覚だからこそ、数字にしてもらう意味があると考えました。
数字は、2019年に仕入先の職人からもらったものです。
具体的な数字を希少種でご紹介します
極上が取れる全形牙は100本に1本

通常、1本の「全形牙」から取れる「印材」は、およそ200本。
そのうえで、ハード材の極上(鈴印が安定供給できる最高峰)が取れる全形牙は100本に1本あるかないかで、その厳選された全形牙から、多くて50本ほどしか極上の印材にならない。
つまり、選ばれた全形牙1本から取れる印材は約200本。
そのうち極上の印材になるのは多くて50本、つまり印材4本に1本ほどです。
芯持ちが取れる全形牙は300本に1本

さらに、「芯持ち」と呼ばれる、中心に点が見える、状態の良いハード材が取れる牙は300本に1本あるかないか。
ハード材はもともと芯に穴があいているので、芯持ちは普通ありません。
市場にはまず出てこない印材です。
このように、芯持ちの数字や、印材2,000本に換算した数字は、象牙オンラインショップのページ「数字で見る、象牙印材の希少さ」にまとめています。
象牙印鑑(実印・銀行印・認印)の選び方と価格|数字で見る、象牙印材の希少さ
彫り手として、この数字をどう見ているか

私は東京で5年修業し、1日30〜40本を彫ってきました。
それでも職人時代、象牙はなかなか彫らせてもらえませんでした。
数年たってようやく任されたときの緊張は、今も覚えています。
また鈴印に戻ってからは、実際購入されるお客様と直接相対します。
そのため、職人時代には味わったことのない緊張感から、実は極上材を1本ダメにしてしまい、親父にものすごく怒られた経験は未だに忘れられません。
そして具体的な数字を知ったいまは、失敗が許されない緊張感と共に、自分の持つ最高の技術で完成させたい想いを込めて、大切に彫り上げています。
もう増えない印材だから
印鑑に向くアフリカ象のハード材は、1989〜90年の禁止のあと、一度も日本に入っていません。
1999年と2009年に条約の許可のもとで輸入されたのは、南部アフリカのソフト材でした。
いま国内にあるハード材が、すべてです。
今回ご紹介した極上が取れる全形牙は、そのうちの100本に1本。ハード材の芯持ちが取れる全形牙は、300本に1本。
いただいた命から取れたその一本を、何十年も、世代を越えて使える実印に彫り上げる。
それが彫り手の仕事だと思っています。
手でとる職人の仕事については、こちらに書いています。
象牙を手でとる
鈴印がいちばんにおすすめしている極上の実印は、こちらです。
象牙(極上)実印
最も希少な芯持ち材は、こちら。