「マンモスとクジラって、象牙とどっちがいいんですか」
象牙の印鑑を見に来られた方から、よく聞かれます。
3つとも、もとは生きものの歯です。
捺したときの印影はどれも鮮明で、きめ細かい。
見た目も、良いものほどよく似ています。
ただ、彫るとまるで違います。
刃を当てたときに返ってくるものが、3つとも別物です。
なので私の答えも、彫ったときの手応えから始まります。
象牙は、硬くて、粘る
象牙は硬い。
けれど硬いだけではなく、粘りとしなりがあります。
だから欠けにくい。
刃がよく効いて、押したときの力にも強い。
もっとも、同じ象牙でも牙によって手応えは違います。
すっと刃が走るもの。硬くて跳ね返してくるもの。
その話は「同じ象牙なのに、なぜ彫り味が違うのか」に書きました。
鈴印のおすすめは、牙の中心に近い、キメの細かい極上です。
マンモスは、柔らかく、乾いている

マンモスは、1万年以上前の氷河期にいた生きものです。
その牙は、シベリアの永久凍土から今も掘り出されています。
つまり化石です。
素材は象牙と同じ象牙質。
良いものは、見た目もほとんど象牙と同じです。
日頃象牙を見慣れている私たちでも、見ただけでは「あれ?なんとなく違う?」くらいの差です。
はっきり分かるのは、彫ったときです。
刃を当てると、象牙より柔らかい。
象牙の柔らかいソフトよりも、さらに柔らかめです。
そして、乾いた手応えが返ってきます。
持つと、象牙より軽い。
見た目より、手で見極めています。
柔らかいと言っても、象牙質です。
水牛と比べれば、はるかに丈夫です。
長いあいだ氷や土の中に眠っていたので、牙によってはヒビや色むらが出ます。
少しでも質が落ちると、印鑑になったときにそれがはっきり見えてしまう。
なので鈴印のマンモスは、牙のいちばん中心の極上だけです。
クジラは、刃物のほうが負ける

マッコウクジラの歯は、象牙をはるかに上回る硬さです。
彫ると、必ずと言っていいほど刃物が折れます。
いつもの感覚で少し無理な角度で深彫りしようとした場合、気持ちよく刃先が折れます。
折れるのが怖いので慎重に彫り進めた場合でも、刃物の角がへたって彫れなくなる。
つまり、どのように対応しても、刃物の研ぎ直しは必須。
本当、彫り手泣かせの素材です。
そのうえ、取れる量が少ない。
印材になるのは、芯の穴が詰まった先端寄りの狭い部分だけで、歯全体の2割ほどです。
クジラの印材が真ん中に芯を持ち、芯を中心にした年輪のような模様になるのは、このためです。
国内の在庫は、数えるほどしかありません。
で、どれがいいのか

3つとも、印鑑の素材としては最上の部類です。
違うのは、何を大事にするかです。
迷ったら、象牙の極上です。
硬さと粘りの両方がある。
朱肉との馴染みがよく、磨くほど光沢が出ます。
鈴印のおすすめは、ここです。
マンモスを選ぶ方の決め手は、性能よりも物語のようです。
あの太古の巨大な生きものの一部を手にする。
それに惹かれる方には、マンモスです。
クジラは、象牙よりさらに数の少ない素材です。
いちばん硬く、芯を中心にした模様は他にありません。
サイズは、その時に入手できたものだけになります。
どれがおすすめ?と聞かれると、正直迷います。
硬さや希少価値なら圧倒的にクジラですが、マンモスに秘められた物語も捨てがたい。
そして、これらと比べると普通に感じてしまう象牙は、3種のなかで最もバランスに優れている。
なので最終的な決め手は、それらの背景を感じた上で、どれに魅力を感じるかの直感でお選びください。
その決断に向けての情報提供が私たちの役目です。
象牙も、マンモスの牙も、クジラの歯も、もとは生きものの体の一部です。
印鑑にすれば、何十年も、次の世代まで使えます。
いただいた命を、最後まで生かしきる。
どれを彫るときも、そこは同じです。
くわしくは、象牙オンラインショップに
3つの違いを表にして、選び方と一緒に象牙オンラインショップの読みものにまとめました。