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一枚の判下に隠された物語

  1. 鈴印と人
  2. 260 view

ちょっと前に事業承継のことについて聞かれまして、今回の物語を思い出しました。
鈴印の店頭には1枚だけ、判下を飾っています。
私自身この判下にはかなり特別な想いがあるんですが、たまにはそんな話をしてみたいと思います。

判下と親子関係

父と私の親子関係の象徴と言っても過言ではない判下。
なぜなら会話は全て、この判下を通して行っていたからかもしれません。

まあ一般的な事例同様、親子で仕事してて当然仲が良いワケもなく。
関係は年を追うごとに悪化の一途。
でも良いか悪いか分かりませんが、1本の印章を作り上げるのに、親子で共作しないといけない事情があったんです。

私たち印章彫刻士にとって、最も難しいのがこの判下を書くことです。
彫ることが難しいと思っている方も多いようですけど、それ自体はキャリアを積めば誰でも誰でも上手くなるものです。
もちろん上を見ればキリがないんですが、どちらかと言えばいかに精密かつ正確に作業できるかどうかですから。
対して判下は文字を書くことになります。
文字に関しては書道家さんがいるように、それこそ上達に時間がかかると私は思っています。
なぜなら正解がないから。
彫刻することは極端に言ってしまえば、いかに判下を忠実に彫るかにかかっています。
対して判下は、0から表現する職人のこだわりが全て詰まった1枚。
だから多くの印章店さんもそうであるように、文字はお店の責任者が書いています。

そんな理由から、以前は判下は親父が書き、それを基に私が彫っていました。
なんですけど、これがまた親子関係は悪化する1つの原因にもなり。
親父からすると、この線はもうちょっとこう彫ったほうが良くなるとか、書いたのを見て自分で思ってるわけですよ。
だけど何も聞いてない私からすると、その通りに彫る。
すると「ここはもっと緩やかにしろ。書いてある通りに彫ってるんじゃなくて、もっとよく考えろよ!」
もう無茶苦茶ですよ。
「なら先に言えよ」
「何ー!偉そうなこと言うなら、もっと上手くなってから言え!」
なんて会話が日常茶飯事。
そりゃ悪化するってモンです♡

でもそんな会話を何年も重ねると、お互いに理解できるようにもなり、気を遣うようになります。
彫る時も徐々に親父の考えや好みが理解できるようになり、それに添った仕上がりになってきます。
親父も意図的に注意点などを書き記してくれ、私が迷わないようにもしてくれていました。
だから一緒に仕事をしていた最後の頃は、我ながらとんでもない完成度だったと思っています。

もちろん普段の会話はほとんどありません。
だって会話すると喧嘩になっちゃうから。
するとしたら、仕事上でどうしてもな時だけ。
でも印章の仕上がりだけはお互い鬼のようにこだわっていましたから、必要な情報は判下を通して交わしていました。
まあお互いに職人ってのもあって、もしかすると特殊な関係だったのかもしれませんけど、それが当たり前の日常だったんですね。

飾ってある判下は親父の最後の手書き文字

人間ですから、調子の良い時もあれば、調子が悪い時もあります。
それは親父も一緒で、多分他の誰にも分からないレベルですけど、体調や気分で判下には波がありました。
なんかある時から私生意気にも、最近ずいぶん落ちたな?なんて思っていたんです。
それは彫る時の修正が増えるってことに繋がります。
だから段々イライラしてくるワケですよ。
でもそれには理由があって、後から気づいたのは親父の体調悪化でした。

まあ結果的に命に関わる悪化でしたから、反映されてしまうのは仕方がないことです。
でも悲しいのは、かといって私が自分で書けないこと。
たまに練習するんですけど、酷いのなんのって。
だから頼らざるを得ません。

そんな日々が何年か経過し、まさかとは思いましたが、本当にヤバいとは。
敢えて会話もしませんでしたが、お互いになんとなく覚悟していたのかもしれませんね。
私も必死に判下を書く練習をしました。
でもなかなか上達しないんです。

最後の頃は、親父には病室で書いてもらっていました。
もちろん私も自分でも書く。
するとそれを添削してくれるかのように「余計なお世話だったかな」なんてメモ書きと共に、完璧な判下が届きます。
自分で書いて困って、添削を見る。
まあ必死だったのもあったと思うんですけど、このやってみて添削を見ることを繰り返しているうちに、ある時見えたんですよね。
親父の判下の極意が。

そして結果的に最後に届いたのが、今飾ってある1枚の判下でした。
体調も優れない中で必死に書いてくれていたその頃、親父の書く判下は全て鬼気迫るものがありました。
その中でも最後の1枚は特に凄くて、見た瞬間になんとなく最後になる予感がしたんです。
私自身、見てしばらくは震えが止まらず、覚悟を決めたほどの完成度でした。

最後に

判下の下部にあるは、私が彫って捺した印影です。
見て感想をもらおうとそうしたんですが、結果見てもらうことは叶いませんでした。
そんな理由もあって、ずっと飾ってあります。

鈴印のHPのトップには「手書き文字」の文言があります。
手書きの意味って、複製しにくいだけでなく、作り手最大のこだわりが詰まっているものです。
また、ただのこだわりではなく、ずっと継承されているものでもあるんです。

そしてこの印章も、親から大切なお子様への贈り物でした。

 

鈴印

〜印を通してお客様の価値を高めたい〜

鈴木延之
代表取締役:株式会社鈴印

1974年生まれ。
A型Rh(+)

1932年創業、有限会社鈴木印舗3代目にして、現プレミアム印章専門店SUZUIN代表取締役。専門店として、印章(はんこ)を中心としたブログを毎日発信。本業は印章を彫る一級印章彫刻技能士。
ブログを書き出したきっかけは、私の親父が店頭で全てのお客様に熱く語っていた印章の価値や役割そして物語を、そして情報が散見する中で印章の正しい知識を、少しでも多くのみなさまに知っていただきたいから・・・
だったのに、たまに内容がその本流から全く外れてしまうのが永遠の悩み♡

一級印章彫刻技能士
宇都宮印章業組合 組合長
栃木県印章業組合連合会 会長
公益社団法人全日本印章業協会 ブロック長

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