マニュアルでは伝えられない、人の温度
食事、買い物、サービスを受ける――どれも「モノ」や「便利さ」だけで満たされるわけじゃありませんよね。
そこにある、ちょっとした会話や気遣い、笑顔。
それがあるとないとで、心の満足度はまるで変わってくると感じることがあります。
家族連れで食事に行くとき

家族連れでは、チェーン店で食事をする機会が多くなります。
どのお店に行っても、同じような雰囲気と味。
注文もタブレットやスマホから、料理がロボットに運ばれ、食べて、会計も非接触で完了。
とても便利でスムーズですし、子ども連れの身としては、変わらない安心感や安定感があります。
徹底されたマニュアルの力

このような均一なサービスが成り立っているのは、しっかりとしたマニュアルがあるからなのでしょう。
どの店舗でも同じように作業が進められるよう、徹底的にマニュアル化されていて、誰でも同じ動きができる仕組み。
特に大手企業では、トラブルを防ぎ、効率を最大化するには欠かせない要素だと思います。
でも、ふと感じることがあります
便利で安心なのに、なぜか心に残りにくい。
というか、必ずといっていいほど、ちょっとした“ズレ”を感じることがあります。
たとえば手が空いているスタッフさんに聞くと、「水はあちら」「おしぼりはそちら」と丁寧に教えてくれます。
注文方法がわからないと、タブレットの操作も親切に説明してくれます。
めんどくさいからお店に来たのに、もっとめんどくさい♡
特に食事って、注文のときが一番ワクワクしませんか?
「おすすめは?」「おまかせで頼むなら?」そんな会話を交えながら選ぶのも、ひとつの楽しみだと思うんですよ。
もちろんチェーン店ではそうしたやりとりは想定されていませんし、それがニーズに合っていることもわかります。
実際、私自身も話すのが面倒なときはありますし、だからこそ便利さをありがたく感じることもあります。
でも最近は、本当に人と会話するタイミングそのものが減ってきたなぁと感じています。
この違和感の正体を考えてみると、「便利さ」や「効率化」の裏にある、仕組みの力なんじゃないかと。
つまり、こうした一貫した対応ができるのは、現場がしっかりとマニュアル化されているからなんだと。
そこに大きな工夫と努力があることも、もちろん理解しています。
ただ、その便利さがある一方で、ある種の想像力や会話の余白が失われていくんだなあ、なんてことをふと思いまして。
マニュアルがあることで想像しづらくなること
昨今の食べ物への異物混入なんて、まさにその象徴のように思えます。
マニュアルは、「正解を共有する仕組み」です。
こういうときはこう動く。こう対応する。
それが明確になっているから、迷わずに作業を進めることができます。
でも一方で、「この先どうなるか」「本当にこれでいいのか」と想像する力は、少しずつ薄れていく気がするんですよ。
マニュアルがあることで、目の前の作業にだけ没頭し、その先に何が起こるかを想像する余地が失われていくように感じます。
つまり、人間が本来持っている判断力や感覚が、マニュアルによって働かなくなった結果として、あり得ないような事態が起きてしまうのではないかと。
正解がないからこそ、考えるということ
接客の現場では、正しい答えを出すことよりも、相手と一緒に最善を考える“協力”が大切なのかもしれません。
私の親父もよく言っていました。
「相手の立場に立って物事を考えろ」
だから今では「どうすればこの方のイメージに近づけるだろうか?」
との意識で話を重ねることで、おのずとその人だけの最善の形が見えてくるものです。
人間関係には正解がないからこそ、考える。
その積み重ねの中に、人と人との心の繋がりが生まれていくように感じます。
鈴印にもマニュアルはあります
もちろん、鈴印にもマニュアルはありますよ。
でもそれは、機械操作やパソコン作業など、正確な手順が求められるごく一部に限られます。
印章彫刻は感覚に依る手作業ですし、接客やご提案にもマニュアルは存在しません。
正確には、私自身、両親の接客を見ていてマニュアル化しようと試みたこともありました。
でも、その都度全部違うから作れないんです(^_^; そしてそれこそが正解なんだと気づきました。
お客様一人ひとりの背景や想い、目的や考え方まで、すべて違いますから。
あらかじめ用意された「正解」ではなく、その方にとっての最善を、毎回一緒に考える。
この「一緒に考えること」こそが、人間の力が最も発揮される場面であり、
それがマニュアルや自動化によって減っていることこそ、現代の物足りなさにつながっている気がするのです。
最後に

マニュアルには大きな力と説得力があります。
一定の品質を保ち、トラブルを防ぎ、効率化を進める。
それはそれで大きな役目を持ちますから、私たちも必要な場面ではしっかりと活用しています。
けれど、お客様とのやりとり・・・つまり、人と人との関係性においては、決められた手順よりも、その人に合った答えを共に探す姿勢が何より大切ではないでしょうか。
それが「マニュアルでは伝えられない、人の温度」だと私は信じています。
おまけのような話をひとつ
昔、よく通っていたアクセサリー店の店主が、こんなことを言っていました。
「私たちは、この商品というモノを通して、そこに込められた作り手の思いや願いなどの物語をお伝えしているんです」
その言葉が、今も心に残っています。
マニュアルでは語れないこと、届けられないこと。
それは“モノ”の裏側にある人の想いだったり、やりとりの中に生まれるちょっとした温度だったり。
もしかするとそれこそが、私たちが提供している価値の核心なのかもしれません。