長くお使いになった象牙の印章。
新品の象牙はその名の通りアイボリーですが、素材が歯や骨と一緒のカルシウムですから、使うほどに色合いが変わってきます。
一番多いのは本物の象牙の特徴でもある、朱肉による変色ですね。
象牙自身が朱肉の油分を吸い上げるため、長年お使いになると朱色に変わってきます。
そして「この朱色を綺麗にできないの?」なんてお話をよくいただきます。
結構多いご相談なので、一度ブログにまとめておきたいと思います。
朱肉で汚れた象牙の印鑑は綺麗にできる?
今回も先に結論を申し上げておきます。
微妙な言い回しになって申し訳ないのですが・・・
象牙を綺麗にすることは、できるけどやらない
「できるならやれよ」と言われそうですけど、鈴印では対応致しかねます。
なのでその理由も合わせてご説明しますね。
象牙は漂白ができる
まず象牙のシミなどを綺麗にする方法として、象牙を漂白する方法があります。
今では少なくなりましたが、過去には象牙のアクセサリーなんかも非常に人気でした。
象牙はネックレスとして使用すると、夏場は体の熱をとって涼しくなる特性もあって付けてる方も多かったようです。
まあ涼しく感じるのは付けた時だけかもしれませんが。
そしてネックレスとして使うってことは、体の汗を吸って変色します。
首元に見えるアクセサリーの変色は美しく見えませんから、漂白して綺麗にするって方法があるんですね。
ただし印章の場合は様々な問題を孕みます。
象牙を漂白すると起こる現象
サイズが変わる
漂白剤につけて色を抜くわけですが、その際に収縮する場合が多々あります。
印章の場合、特に実印などの登録印はサイズも合わせて登録しますので、違ってしまうと違う印とみなされちゃいますからね。
そのために鈴印では対応致しかねます。
破損の恐れがある
上にも書いたように収縮するということは、極端に言うと破損してしまう恐れがあります。
特にキメの荒い象牙になると、その境目からヒビが入ったりですね。
基本的にお預かりする以上は、印面は現状のままお返しするのが原則と考えますので、鈴印では対応致しかねます。
成分が変わってもろくなる
象牙は骨と同じカルシウムですので非常に丈夫で変化がありません。
骨と一緒なので燃えないんですね。
しかし漂白剤につけると成分が変わってしまいます。
皆さんもご経験があると思いますが、洋服とかを漂白剤につけるとカサカサになりますよね?
そして象牙はそれ以上に著しく劣化します。
かなり昔ですが、実際のサンプルがあるのでご覧いただきましょう。
まずはそのままの象牙を燃やした場合。
黒ずんでますけど、よく見ると彫刻面も残っています。
表面は焦げますけど、そのまま残っています。
しかし漂白した象牙は成分が変わります。
写真だけじゃ分かりにくいかもしれませんが、炭のようにスカスカになり力を入れると割れそうです。
つまり成分が著しく弱くなってしまうため、鈴印では対応致しかねます。
まとめ
今回のご相談は、彫り直しの時なんかにいただくコトが多いんです。
せっかく彫り直すなら綺麗にして使いたい、お気持ちはよく分かります。
しかしせっかくの象牙の素材も綺麗にするのと引き換えに、印章として一番大切な長く変化しない特徴を奪ってしまいます。
彫り直しは形見の場合が多いです。
であれば、それまでお使いになられてた方の歴史も踏まえてご継承なさることをオススメします。
逆に考えれば象牙の変色は本物の証ですし、何より使い込んだ色合いの迫力は何物にも変えがたいものがあります。
せっかく最高級の素材ですから、下手に余計な手を加えず本来の魅力をぜひご堪能ください。
そして余分な汚れがつかないためにも、使い終わった後には必ず朱肉を拭き取っておいてください。
それだけでより美しい経年変化を実感できますから。