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手彫りと機械彫りは一体何が違うのか?

  1. 手彫りと手書き

ここでは印章制作においてみなさんが気になる、手彫りと機械彫りの違いについて解説します。
手彫りと機械彫りそれぞれのメリットとデメリット、またそれ以外の彫刻方法、そして複製に関してまで詳しく網羅していきます。
最後までご覧いただくことで、本当に大切なことは彫刻方法だけではないことに気がついていただけると思います。
一度手にすると長いおつきあいになる印章ですから、作る前に知っておいてください。

2018年4月20日に公開したブログですが、2020年8月30日に全面リライトしました。

手彫りと機械彫りの違い

手彫りと機械彫りの一番の違いはその名の通り、手で彫るか、機械で彫るかです。
手作業は全く同じものが再現できず、機械作業は全く同じものが量産できる。
つまり手彫りには、印鑑に必要とされる要素「唯一無二」が備わっていることになります。
一方で、機械彫りも市民権を獲得している彫刻方法です。

なのでまずはそれぞれのメリット・デメリットから見ていきましょう。

手彫りのメリット・デメリット

手彫りのメリット

・複製ができない(厳密にはできる)
・作り手によっても仕上がりが大きく異なる
・写りが良い(厳密には手彫りとは関係ありません)

・複製ができない(厳密にはできる)
手作業ですから当然全く同じものを彫ることは難しいです。
またみなさんが手彫りを選ばれる1番の理由もここにあると思います。

ただし時間と手間をかけることで、全く同じものを彫ることも実は可能です。
もちろん刑法第19章「印章偽造の罪」によって禁止されているため、実際に彫刻することはありません。
ご理解いただきたいのは、複製ができないのは技術的な問題ではないことです。

・作り手によっても仕上がりが大きく異なる
こちらもみなさんがお店の選定を迷う要因になっているのかもしれません。
飲食店での味のように、同じ書体でも仕上がりが異なるので。

つまり職人が違うことで、全く同姓同名で同一書体で彫っても全く異なる印章が完成します。
もちろんその職人の仕上がりも気になるかと思います。
先に雰囲気を知りたい場合は、お店のHPなどに掲載されている印影の見本などが参考になります。

・写りが良い(厳密には手彫りとは関係ありません)
ざっくり区分けしてしまうと機械彫りの場合、あまり手間をかけずに完成させる傾向があるため、手彫りの方が写りが良いとしました。
正確には写りの良し悪しを決めるのは、印面を平らにする「面丁(めんてい)」作業です。

印材、特に天然材などは仕入れの段階では印面に歪みがあるため、それを平らにしないと当然よく写りません。
もちろん同じ天然材の石や、工業製品のチタンなども同様で、写りの良し悪しを決めるのは印面の処理です。
つまり彫刻方法とは関係がない工程になりますが、おおむね手彫りの方が写りが良い場合が多いため、こちらに括りました。

手彫りのデメリット

・時間がかかる
・作り手によっても仕上がりが大きく異なる
・コストがかかる

・時間がかかる
1本1本、段階を経て彫刻していくため、どうしても時間はかかってしまいます。
詳しく知りたい方は、以下の手彫り全行程をご覧ください。

・作り手によっても仕上がりが大きく異なる
メリットにも掲載しましたが、一方でデメリットにもなり得ます。
要するに上手い下手です。

みなさんが思っている以上に技術に差があるのも事実です。
その違いを比較したい場合は、HPなどで公開されている印影が参考になります。

・コストがかかる こちらも職人が実際に手作業で彫りますから、そこに技術料が発生します。

また技術料も美容師さんのように、職人によって異なります。 高ければ良いというわけではありませんが、あまり安い場合は本当に手彫りでない可能性も考えられます。
その辺りの詳しくは後述します。

機械彫りのメリット・デメリット

機械彫りのメリット

・早い
・量産ができる
・安い

・早い
機械で彫刻する場合、彫刻機の性能によって多少は異なりますが、おおむね5〜10分程度で完成します。
とはいえその前に文字を作る入力作業があり、当然その時間は別にかかることになります。
パソコンのフォントで文字組みをする場合などは数分で完成しますが、ここに手書き文字を使用すると時間は別途必要になってきます。

一般的に早さをうたっている場合は、フォント+機械彫りになりますので、早さ優先であれば機械には敵いません。

・量産ができる
機械ですから極端な話、休まなくても壊れるまで動きます。
そのため大量に受注が集中した場合でも、対応可能です。

三文判などもこの製法で作られており、決して全てが悪というわけではないんですね。
役所の都合などで早急に1回だけ認印が必要なんて場合にも、役に立っているわけです。

・安い
機械で彫ることで職人の人件費もなく、またスイッチを入れてしまえば放っておけますので、人の拘束時間も削減できます。
そのため手彫りと比べると桁違いに安く完成させることができます。

またいわゆる相見積もりなどで価格を抑える必要がある場合などにも重宝されています。

機械彫りのデメリット

・複製ができる(条件あり)
・写りが悪い(条件あり)
・耐久性に劣る

・複製ができる(条件あり)
機械なので当然同じものが量産できることは前述した通りです。
ただしこれには入力、つまりパソコンフォントを流用するという条件がつきます。

逆にフォントが違えば違うものができます。 とはいえそれほど多くない印章に使われるフォントですから、同じものができてしまう可能性が高いため、デメリットとします。

・写りが悪い(条件あり)
先ほど述べた印面の調整とはまた違った要因になります。
彫刻機は歯医者さんのように、先の尖ったピンを回転させて彫るため、文字の線同士が近すぎると目詰まりを起こしやすくなります。
すると目詰まり部分にはゴミなども埋まりやすく、捺印の邪魔をします。

この現象は文字間を開けることで解消されますが、なかなかそこまで細かい対応をしていることは少ないようです。

・耐久性に劣る

意外かもしれませんが、同じ素材でも手彫りと機械彫りでは耐久性が異なります。

上記画像の左が手彫りで、右が機械彫りになりますが、枠の外側をご覧ください。
左の手彫りは枠の外側が削り落とされているのに対して、右の機械彫りはそのまま切り立っています。
これが強度に大きな影響を与えます。
手彫りの場合、全ての線を削りますので、枠だけでなく文字全体にも言えることですが、土手を作り強度を高めます。

一方でチタンなどはそもそも素材の硬さが天然材を超えているので、このような工程をしなくても耐久性は高いです。
なので天然材に限定されますが、機械彫りの方が耐久性に劣ります。

手彫りと機械彫りのメリット・デメリットまとめ

ここまでをご覧いただいて、その比較になんとなく歯切れの悪さを感じられているとしたら正しく伝わっている証拠です。
なぜなら彫刻する立場として、彫刻方法による決定的な違いは、みなさんが思っているほどあるわけではないと考えるからです。

彫刻方法はあくまで出力。
例えばスピンドル彫刻機と、レーザー彫刻機は特徴や使い分けこそあれ、作り手として特に重要な内容ではありません。
それより大切なのは入力、印章の場合は文字です。
なぜなら文字こそ、印章の最も必要な要素が全て含まれているからです。 では次項では、その文字についてご紹介してきます。

複製を防ぐには彫刻方法より使用する文字

何でも同じですが、物を作る上で一番大切なものは設計図です。
印章の設計図は、文字です。
文字はオリジナル性も大きく異なりますし、それこそ複製もできない。
そして最も技量に差が出るのも文字です。
どれだけ優れた出力方法を使っても、文字デザインが未熟では良いものはできません。
逆に文字が良ければ、出力方法を変えても大きな差が出ないことはこれまで述べた通りです。

ではまず複製という観点で、印章を作る4要素「手書き文字・PCフォント/手彫り・機械彫り」の組み合わせで見てきましょう。

複製に関しての組み合わせ4パターン

【複製しにくさ】
◎手書き+手彫り
◯手書き+機械彫り
△フォント+手彫り
×フォント+機械彫り

単純に分けると、上の4パターンになります。
では以下でそれぞれ見ていきましょう。

◎手書き+手彫り

複製できない手書き文字を使って、複製しにくい手彫りによって、複製のしにくさはNo.1です。

◯手書き+機械彫り

複製できない手書き文字を使えば、複製しやすい機械彫りでも、ちょっとした方法で複製を防げます。
それは入力、つまり文字デザインを再利用しないことです。
都度文字を手書きし、都度消去してしまうことで、PCでも複製は防げます。
これを利用しているのが、鈴印の場合はチタンです。

△フォント+手彫り

複製できるフォントを使って、最終的に手を入れる。
ここは要注意です。
手彫り信仰が強すぎると誤解しがちのなのですが、手彫りとうたっていても実際には枠だけを削っているだけのパータンも見受けられます。
枠だけ彫る、そうなると文字は機械彫りと同じですから、ほとんど同じようなものが作られてしまいます。
ここは重要なので、後ほど補足します。

×フォント+機械彫り

複製できるフォントで、量産できる機械彫り。
細かく見ればフォントのレイアウトを多少いじるなど、全く同じにしない方法はありますが、コストを抑えるのが使命である以上、ほとんど手がかかっていないと考えた方が間違いなさそうです。

複製のしやすさ、まとめ

このように複製の問題に関しては、文字を手書きで作っているかどうかが最も関係してきます。
また手書きによって美しさやバランスの良さなど、他の恩恵を非常に受けやすい特徴もありますが、複製という観点にも貢献しています。
つまり良い印章に不可欠なものは手書きと言っても過言ではありません。

では次に印章の製作についてより深く知るため、製造方法の細かい組み合わせについて見ていきたいと思います。  

印章製造工程の種類

印章の彫刻方法は一般的に「手彫り」と「機械彫り」と2つと思われがちです。
ところがその中間に「手仕上げ」というものが存在しています。
これまで述べてきた「文字の制作」と「彫刻方法」のうち、彫刻方法を「荒彫り」「仕上げ」にまで細分化すると、全部で9種類にもなります。
具体的には、株式会社現代出版発行の知らないと恥ずかしいハンコ屋の「常識」から抜粋させていただきます。

先ほど要注意と述べたフォント+手彫りの事例は、表ではEにあたります。
この表では「機械彫り」に該当しますが、手を入れている=手仕上げと表記している場合も存在します。
なぜなら上記の表の概念が、業界内でも標準化されていないためです。
つまり幾多の製造工程がある中、途中からまとめたため多少の無理が生じて、全てこの通りに製造しているとは言い難いのが現状です。

ちなみに鈴印の彫刻スタイルはAもしくは、AとGのハイブリッドのため、やはりこの規格に準じておりません。
また印章店の数も膨大にあるため、それぞれが独自のルールで製造していると思われます。

最後に

以上が手彫りと機械彫りのお話になります。
複製の問題も関わるため、かなり突っ込んだ内容になりましたが、全貌がお分かりいただけたかと思います。
もちろん複製が印章の全てではありませんが、やはり気にされる方も多いですからね。

最後にもう一度繰り返しますが印章制作において最も大切なことは、手書きの文字を使用しているかどうかに尽きます。
そのため安易に安いものに手を出す前に、一度文字について質問することをオススメします。

お店によっては複数の製造方法を用意しているところもありますが、もし迷った際の判断基準にしてください。

効率を重視するか、唯一無二を重視するか。
その辺りもお店の考え方が反映されます。
色々な表現に惑わされず、あなたの望む1本を見つけてください。

鈴印

〜印を通してお客様の価値を高めたい〜

鈴木延之
代表取締役:株式会社鈴印

1974年生まれ。
A型Rh(+)

1932年創業、有限会社鈴木印舗3代目にして、現プレミアム印章専門店SUZUIN代表取締役。専門店として、印章(はんこ)を中心としたブログを毎日発信。本業は印章を彫る一級印章彫刻技能士。
ブログを書き出したきっかけは、私の親父が店頭で全てのお客様に熱く語っていた印章の価値や役割そして物語を、そして情報が散見する中で印章の正しい知識を、少しでも多くのみなさまに知っていただきたいから・・・
だったのに、たまに内容がその本流から全く外れてしまうのが永遠の悩み♡

一級印章彫刻技能士
宇都宮印章業組合 組合長
栃木県印章業組合連合会 会長
公益社団法人全日本印章業協会 ブロック長

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