その日もいつものように、お店の電話が鳴りました。
鈴印の扱う商品は印章なので、馴染みの人よりも初めての方が割合としては多い感じ。
たまたまスタッフたちが接客中で、空いているのは私のみ。
なのでたまたま出た感じでした。
電話は想像以上の情報のやりとりができる
「鈴印さんのオリジナルの印材で、今何かオススメのってあります?」
おぼろげな記憶で申し訳ないんですけど、確か第一声はそんな感じだったように記憶しています。
希望される印材は、確かあまり在庫が豊富にないもの。
電話って本当想像以上にその方のニュアンスが伝わってきます。
「もし在庫が無くても、なんとかして探し出したい」
そう強く思ったことをよく覚えています。
不思議とその方とは、はじめて電話でお話ししたとは思えないほどの親近感を感じました。
普段お客様との電話では、あまり個人的な事情にまで踏み込む機会ってありません。
でもその方とは深い話になっていきました。
伺うと、本来はこの先も仕事の予定がびっしりと埋まっていたこれからの時期、コロナの影響で全てキャンセル。
そのため急遽実印が必要になったとのこと。
昔から印章を大切にされる方って、実印を作ることに想いを込めます。
実印を捺すことは運を切り開いていく行為ですから、命運を握っているものとも言えます。
なので大変な時期にも関わらず、決してお安いわけではない鈴印に白羽の矢が立ったのかな?などと想像しつつ、そのためにでき得る全てを提供したいと強く思いました。
わずかな時間だったかも知れませんが、会話をするって凄い力があります。
文章だけでは伝わらないニュアンスまでを、相互理解することができますから。
心底勇気づけられる印章
その後はご注文内容の確認等もあって、やりとりはメールに移っていきます。
今回ご本人様からブログ掲載のご快諾を得ることができましたので、一部を引用させていただきます。
生憎このような時期での依頼となってしまいましたが、如何なる状況でも妥協はしたくない故、鈴印さんに辿り着いた次第です。
探し求めてきたこだわりの印鑑となることは確信していますので、とても楽しみにしております!
引き続き何卒よろしくお願い申し上げます!
お電話でのやりとりの後のこの本文には、私も心の底から力がみなぎってくるものです。
決していつも軽い気持ちで彫っているわけじゃないですけど、今回は何か特別な感情が沸き起こってきます。
気持ちが昂っている時って、総じて良いものが出来上がります。
とは言え、実際に捺すご本人様の感想は分かりません。
そして願いを込める気持ちで発送しました。
先程ですが、無事に実印を受け取りました!
単刀直入に申しますと…手に取って暫く見とれてしまいました。
もはや言葉では言い切れないのですが、何だか存在感がモノでは無いんです。
自分の名前が分身として実体になって現れた…というか、とても不思議な感覚なのです。
見入る度に誇らしいやら嬉しいやらで…本当にありがとうございます!心底勇気づけられます!
何度も何度も読み返しちゃいました。
こんな時期に自分たちができることは何かないだろうか?
そんな自問自答を繰り返していただけに、自分の仕事が誰かのお役に立っていることが、なんとも言葉に表現できない喜びとなりました。
最後に
その後もメールのやりとりが続きました。
思うに…日本に生まれたならば誰しもが表意文字的性格をもつ「漢字」で表記される自身固有の姓名を持てる訳ですが、「契約」という厳格な社会的行為で絶対必須となる「署名捺印」には、やはり契約を行う個人の「id」となるべく…その人なりを象徴してくれる「字体」に纏われた、その人固有な印章具は絶対に欠かせないし、自分は絶対そのような唯一無二な印章具を所有したい!と予てから拘ってきました。
分身であるべく「実印」に徹底的に拘われば拘るほど…自分が惚れ込み、納得できるような状況に全く出会わず終いで、取り敢えずの妥協の後にその事も今迄忘れていたのですが…鈴印さんのお仕事を偶然お見掛けした瞬間…グッとくるタイポグラフィで自身固有の実印が作れるんじゃないかこれは!と本能的に私のアンテナがフル稼働で察知し、こうしてご連絡差し上げることに至った次第でした!
ものづくりを生業としている私自身の印章具への思いを、絶対安定のプロフェッショナルな所作で颯爽と具現化して頂いたこと、心から感謝致します!
個人的に永久保存版です。
昨今は今まで以上に印章不要論を目にする機会が増えてまいりました。
だからこそ余計に、気持ちと言葉に私たちも励まされます。
心底勇気づけられたのは、私たちです。
自分たちができること。
それは今までと変わらず、必要とされる方のために全身全霊を込めて作り上げること。
お客様に勇気を与える印章を作ることだと、教えていただきました。
ありがとうございました。