今ではあまり知られていないかもしれませんが、かつて象牙は装飾品の最高峰として扱われていました。
その理由は、象牙が非常に硬い素材でありながらも、細やかな彫刻が可能な希少性にあります。
最盛期にはブローチやペンダントなど、冠婚葬祭を彩る宝飾品として重宝されていました。
今回ご紹介するのは、そんな象牙の中でも宝飾品・高度な細工品・唯一無二の印章という3つの特性を融合した、非常に貴重な2点です。
こづち印
「打出の小槌」は、日本の説話や昔話に登場する伝説上の宝物で、振ることで富や福が出てくるとされています。
大黒天が持つ象徴としても知られています。
この印章は、その「こづち」を象ったもので、細工の精密さには目を見張るものがあります。
握りの部分はネジ状に外れ、印章として使用可能。
さらに反対側の頭飾りも取り外せる構造で、実用というよりは細工技術を極限まで追求したものです。
このようにネジ式で部品が構成できるのも、象牙ならではの彫刻性と精度の賜物です。
なお、この小槌本体はロクロで精巧に削り出されたもので、製作可能な職人がすでに不在のため、現存するのはこの一点限りとなっています。
ひょうたん印
末広がりの形をしたひょうたんは、除災招福・魔除けの象徴として、また蔓が伸び実が鈴なりになることから家運隆盛・子孫繁栄の縁起物とされています。
こちらの印章は、その縁起の良いひょうたんを象ったデザイン。
職人の手によって一つ一つ丁寧に削り出されています。
特殊な形状のため機械彫刻が使えず、彫りはすべて手作業。
手に取ると、こづちよりも重量感があり、およそ45gほど重くなっています。
本来ひょうたんは水筒としても使われており、この印章にも首にかけられる紐が付属しています。
ロクロで削り出された美しいバランスのひょうたん型ですが、こちらも製作者が不在のため、現存はこの一点限りの貴重品です。
最後に
本来であれば、それぞれ単独でご紹介すべきほど完成度の高い2品ですが、今回は特別に同時にご紹介させていただきました。
精巧な技術を凝縮した「こづち」、重厚感と縁起の良さを兼ね備えた「ひょうたん」。どちらも優劣つけ難い逸品です。
これほどの細工品で、かつ美しい状態を保っている印章は、今後出会えることはまずないと言えるでしょう。
鈴印では、限定品ほどすぐに完売する傾向にありますので、気になる方はぜひお早めにご来店いただき、実物をお手にとってご確認ください。
補足:こづちとひょうたんに込められた意味
🔍打出の小槌とは
「打ち出の小槌」は、日本の昔話や民間信仰に登場する伝説の道具で、大黒天の持ち物としても知られています。
振ることで富や福を呼び寄せ、願望成就の象徴とされてきました。「意志を押し出す」印章との親和性は高く、こづち型印章には特別な意味が込められているのです。
🔍ひょうたんの由来
ひょうたんは、世界最古の栽培植物とも言われ、かつては水筒として人々の命を支えてきた存在です。
日本では、末広がりの形から繁栄や招福の象徴とされ、魔除けや風水アイテムとしても重宝されています。印章として持ち歩くことで、まさに“縁起を携える”存在となります。