こちらのブログをご覧になっているみなさんは、印章彫刻において手彫りと機械彫りの彫刻方法があるのはご承知のことと思います。
そして「手彫り>機械彫り」になることも、改めてお伝えするまでもないかもしれません。
詳しくは過去のブログをご覧ください。
今回お伝えしたいのは「手彫り」においての比較の話になります。
みなさんも手彫りであることで、当然職人の技量に差があることはなんとなく感じられると思うのですがいかがでしょう?
私自身もその差に関しては重々承知をしていますし、またその差をあまり公表すべきでないとの判断をしており、これまでブログに書いたことはおそらくなかったと思っています。
印鑑に求められる重要な要素は「唯一無二」であり、その要素に関して技量の差は関係ありませんからね。
ですが今回お客様から手彫り印章についてのご相談があり、それは「手彫りだからこその問題点」を浮き彫りにするものでした。
さすがにこれではご不安になると思い、その詳細をブログで共有することにしました。
手彫りだからといって、美しく綺麗に捺せるわけじゃない
先日はじめてのお客様がご来店され、以下のようなご相談をいただきました。
先日ネットで「手彫り」の印を注文したんですが、文字がガタガタしているし、何回捺しても綺麗に写らないんです。
これって本当に手彫りなんでしょうか?
実際に印章を拝見した上で、私は次のようにお答えしました。
ただお客様が気になる「文字のがたつき」や「綺麗に写らない」理由もはっきりしています。
せっかくご購入されたのに、もしかするとあまり良い気分にはならないかもしれませんけど、理由をお伝えしてもよろしいでしょうか?
手彫りの根拠は段差
まずは「手彫り」であることの見極め方からお伝えします。
上の写真は実際の印面になるのですが、表面に朱墨を打っており、印面の朱色に対して白い土手が見えて「段差」ができています。
この段差ができている点が、手彫りの1つのポイントになります。
他にも手彫りには、底面が凸凹ができるなど他の要素もあるのですが、ここでは割愛します。
詳細は上記のブログリンク「手彫りと機械彫りは一体何が違うのか?」をご覧ください。
ここでひとまずご理解いただきたいは、段差があるということは、刃物で削っていることです。
つまり機械での彫りっぱなしではないということです。
参考に削っている工程は、私が実際に作業している動画を貼っておきます。
線がガタガタしているのは荒彫りと仕上げの技量
違う文字でも同じようになっているのですが、削る工程は「仕上げ」工程です。
またその前の「荒彫り」という工程で、できるだけ「仕上げ」に近づけることで、この段差もギリギリまで減らし、見た目も仕上がりも綺麗になります。
参考に荒彫りの工程の動画置いておきます。
綺麗な仕上げをするためには、「荒彫り」で仕上げに近づけつつ、「仕上げ」で徹底的に切れ味を出す技量が求められます。
言うは易しなんですが、行えるようになるためには、何年もかかるのが現状でもあります。
つまり線がガタついている一番の理由は、印章彫刻における技量の問題になります。
綺麗に捺せない理由は、朱墨を打つ技量
最後に綺麗に写らない原因です。
今度は文字の表面をご覧ください。
朱色の部分が全体的にデコボコしています。
本来であれば、表面の墨は全く凹凸がない状態が理想です。
なぜなら凹凸はゴミの付着と一緒で、捺印の邪魔をしますので。
ところがこちらの印で使用している朱墨は、粘度が高いため平らに打つのが非常に難しのです。
その日の湿度にも影響されるくらい、とても繊細です。
上手く打てないからと、上から重ねて打つと、画像のようにデコボコの印面になってしまいます。
こちらも参考に「墨打ち」の動画を貼っておきます。
実はこの後、この印を元に「私が補刀したら」という内容を書こうと、印面の朱墨を落としたところ、面丁(めんてい)という、印面を平らにする工程でも、印面がデコボコであることがわかりました。
つまりデコボコであることと、また写りが悪い原因は、手彫りに原因があるということになります。
私が補刀した場合
補刀とは、刃物で補助する、つまりすでに仕上がったものを削って精度をあげる行為になります。
しかし元になる状態がよくないため、面丁工程からやり直しました。
実際に行ったのは以下になります。
- 面丁し直し
- 朱墨打ち直し
- 「山」のみ仕上げ直し
条件を揃えるため、すべて同じ条件にしてみました。
前述した段差(土手)が多くなっているのは、線の太さを揃えるため、多めに削っているからです。
そして実際に捺印したのが以下になります。
こちらも朱肉・紙を全くおなじものを使用しています。
この差を「わずか?」と捉えるか「全く違う」と捉えるかは、ご覧になったみなさんに預けます。
最後に
最後に、改めて手彫り印章のビフォー・アフターの比較写真を載せておきます。
左がビフォー、右がアフターです。
この写真を見ていただくと、機械彫りや手彫りだけでなく、手彫りにも技術の違いがあることを実感していただけるかと思います。
また、その中間のような手仕上げという彫刻方法がさらに話をややこしくさせます。
この方法はパソコンフォントを使用して、一部を刃物で削る、どちらかと言うと機械彫り寄りの手法です。
効率化を求めるなら機械彫りが最適で、手仕上げはその次に効率的です。
しかし、鈴印では創業以来、手書き文字と手彫りにこだわり続けています。
その理由が少しでもご理解いただけたなら嬉しく思います。
なお、今回ご紹介した「補刀」はブログ用の特別な対応で、通常は行っていません。
もしお手持ちの印を彫り直したい場合は、「改刻」というサービスをご利用いただければと思います。
補刀では修正が多くなりすぎるため、かえって費用が高くなってしまうことがあるからです。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。今回のブログが困っているどなたかの一助になれば幸いです。
鈴印では今後も、みなさまにご満足いただける製品を提供してまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします。