すっかり寒くなってきましたね。朝晩は特に。
みなさんもダウンやコートを出したりとバタバタしていることと思います。
ちなみに私たちハンコ職人はこの時期、衣類とは違った一手間が必要になります。
それが練り朱肉です。
練り朱肉にも種類があります
私たちは納品の際に、最終捺印確認とお客様への披露も兼ねて、全て練り朱肉で捺した印影を同封しています。
もちろんそれには理由がありまして、一般的に使われるスポンジ朱肉と違って、よりくっきりと印影が出せるからなんです。
またくっきりの定義も2つあって「濃い印影」「キレのある印影」を両立できるのは練り朱肉のみ。
ちなみに「濃い印影」は、高級感と美しさを見ていただくため。
「キレのある印影」は、私たちの仕上げた線の切れ味を見ていただくため。
特に彫り手からすると切れ味って生命線なので、それがぼやけるのが嫌なんですね。
なので練り朱肉を使っています。
ところがこの練り朱肉ってのは、そこそこ手間隙をかける必要があります。
まず私が使っている練り朱肉はこちらです。
これの5両装と呼ばれる150g入っている物を2個ローテションで使っています。
当然毎日捺して使っているわけですけど、多分2つは生涯使い切れないでしょう。
ではなぜそんな大きな物を2つも使うのかって言いますと、理想の状態を保つためなんです。
参考までに鈴印サイトで販売している朱肉は、そんな手間はほとんどかかりません。
これは繊維質のためで、朱肉の中に繊維が混じることで、空気の層が生まれ温度の変化の影響を受けにくくします。
対して私が使う美麗は泥質で、粘土のように気温の影響をもろに受けます。
そのため固くなれば練り、柔らかくなればサラシなどで油分を取ったりしています。
ではなんで使いやすい鈴印のサイトで販売している朱肉を使わないのか?ってことになりますが、それが上述したキレなんです。
繊維質の朱肉は繊維が入っているため、捺印の際に微妙にその繊維が映り込み場合もあります。
また比較的柔らかいため、沈み込んで印面の土手までを拾ってしまうことがあるんです。
※印面は鉛筆の先のイメージで、写る部分は細いが、土手に広がる形状のなっています
朱肉が付き過ぎて土手まで写ってしまうと、仕上げた線の切れ味ではなくなってしまいます。
そのため固めで多少手入れが必要な泥質を使ってでも、美しい線を表現したいんですね。
ここまでをまとめますと以下。
【繊維質の練り朱肉】
◯繊維が混じっているため温度の変化を受けず、柔らかく常に同じ状態で捺印することができる。
×捺印の際に繊維が一緒に取れることがあり、写り込む場合がある。
【泥質の練り朱肉】
◯固めなので、彫り手として理想の印影が出せる
×気温の変化をダイレクトに受けるため、メンテナンスが必
固くなったら練ってみてください。
私的にNGなのは上記のような印影です。
薄過ぎて美しいとは言えません。
これは朱肉が、寒くて固くなり過ぎたために起こる現象でもあります。
なので一度練り直す必要があります。
って言っても簡単です。
専用のヘラ、またはバターナイフなどで表面をなぞるだけ。
参考に動画を撮りました。
本当状態に合わせてですけど、表面がやや柔らかくなる程度に5〜6回なぞる程度です。
あまりやり過ぎちゃうと今度は柔らかくなり過ぎて、土手まで写り混む状態になっちゃうので、最初は様子を見ながらの方が無難です。
とは言え、一般の方は線の切れ味までは求めないと思われますので、多少柔らかくても問題なしです。
ちなみに柔らか過ぎてどうしようもなくなったら、サラシで顔の脂を取るようにペタペタと油分を吸い取ってください。
もっと知りたい方は、以下のブログを参考になさってください。
最後に
普段なかなか伝わらない裏話でしたけど、今朝ふと思って書いてみました。
でもこの練り直して最高の状態になった朱肉って、捺したくなる魅力があります。
良い状態の朱肉ですとアラが目立ちますから、仕上がりにも良い影響を与えてくれます。
そして今朝捺した印を先ほど店頭にお引き取りにお客様がいらっしゃいました。
「わー!綺麗ですね!」
その一言が最高の褒め言葉です。