そういえばお客様からお問い合わせが多いですね。
「今使っている象牙のハンコが汚れちゃったんで綺麗になりませんか?」
その際のこう回答させて頂いております。
「象牙を綺麗にする方法に『漂白』という方法がありますが、材料がもろくなるので当店では対応しておりません。」
もしかすると一般にはあまり馴染みのないお話かもしれませんので、その意味をご説明します。
まず新品の象牙は綺麗な白に近い薄いクリーム色をしております。
真っ白じゃなく、やや黄色みがかったクリーム色といった感じ。
こちらは全て天然材になりますので、その個体差によって色も若干変わります。
それが長年使用する事によって、飴色に変わり、朱肉を吸い込んだ部分は朱色に変色します。
写真の上の方が印面になり、朱色に変色しているのが分かると思います。
個人的には変色した方が歴史を感じ、迫力があると思っております。
ただこの変色が上記の画像のように綺麗に変わればいいのですが、汚れを放置したりするとそのまま染みになり汚れて見える場合もあります。
すみません、手元にサンプルがないので画像はありません。
そこで何らかの方法で綺麗に汚れを取れないか?というのが今回のお話。
象牙は漂白すると白くなりますが、もろくなります
象牙も「漂白」することができ、それにより真っ白になります。
方法は衣類の漂白なんかと同じですね。
漂白剤にしばらく浸けて、色を消してしまう方法です。
ただし以下の3つのリスクがあるため鈴印では受け付けておりません。
①色が消えるだけでなく、象牙の模様も消えてしまうから
衣類の漂白をご経験の方はおわかりかと思いますが、人工的に色を抜く場合どうしても人工的な真っ白に変色してしまいます。
おまけに象牙本来の艶感も消滅し、カサカサなボロボロの白に変わります。
そして更に問題なのは、象牙の模様も消えてしまう事です。
象牙には品質があります。それが一番分かりやすいのは材料の模様を見る事です。
その辺は過去ブログ「象牙の品質の見分け方」をご覧下さい。
要するに象牙には以下のように模様があり、その模様によって品質がある程度分かるのですが
その模様が全く分からなくなってしまうのです。
これはお店の考え方もあるとは思いますが、鈴印ではその本来の色艶こそ象牙の本来の姿と考え、それを著しく損なう漂白は対応しておりません。
②破損の恐れがあるから
これは物理的な問題ですね。
この漂白は鈴印では当然行いませんので、仮に受け付けてしまった場合はどこかにお願いするようになります。
なので、その移動の際に破損してしまう恐れや、漂白している際にヒビが入るリスクもあります。
仮に印面の枠が欠けてしまった場合や、材料にヒビが入ってしまった場合は当然彫り直しになってしまいます。
ただし仮に彫り直してもそれで終わりではありません。
実印の場合は全て登録変更をして頂ければなりません。
なのでそのようなお客様に余計なリスクが発生するため、鈴印では承っておりません。
③材料の質が変わってしまうから
これが一番大きな理由かもしれません。
「質」が変わる、分かりやすく言うと「もろくなる」って事ですね。
つやつやした張りのある材質から、かさかさした枯れたような材質に変わってしまいます。
ですから当然耐久性も著しく低下します。
それを表す端的な例がございます。
それは・・・
「漂白した象牙は燃えてしまう」
です。
象牙はカルシウムです。つまり人間の骨や歯を形成するカルシウムと同じ成分です。
人間の骨は燃えませんよね?
それと同じで象牙も燃えません。
過去に聞いた話では、火事で耐火金庫まで燃えてしまったが、その中に入れておいたキャップ付きの象牙の実印は燃えず、その後の契約がスムーズに済んだ会社があったそうです。
つまり象牙の一番の強みは「燃えない事」だとも言えます。
それが漂白してしまうと一転、燃える材質に変化してしまうのです。
過去に私の親父がその話に興味を持ち、実際両方燃やしてみたサンプルがあります。
左が漂白してない象牙。右が漂白した象牙です。
漂白してない象牙は表面が黒く変色しただけですが、漂白した象牙は炭のようにスカスカになっています。
つまり品質が変わっちゃってるんですね。
まとめ
象牙はむき出しの天然材です。
だから人間の歯が変色するように、象牙も使うほどに変色します。
日に当たれば焼けますし、空気を吸っても変色します。
でも汚れるのはイヤですよね?
なので最後にどうやったらこのように綺麗に経年変化させられるのかをご紹介しましょう
注意して頂く事はただ1つ。
使い終わったらティッシュ等で、朱肉などの汚れを綺麗に拭き取って下さい。
それだけ!
むき出しの材料ですから、汚れが付着すると染みこんで落ちません。
なので染みこむ前に汚れを拭き取って頂く。そんなイメージです。
革もそうですが、手をかけるほど天然物は綺麗に長持ちします。
むしろ象牙は革と比べると手は掛かりません。
拭き取るだけでいいですからね!
なんでもそうですけど、綺麗に使う事が長持ちの秘訣ですね。
そして仮に多少汚れが付着しても、それこそが味であり歴史です。
経年変化は象牙の魅力です。
なのであなただけの歴史を、ぜひ刻み込んで下さい!