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象牙の全てをまとめた説明書

  1. 印材
  2. 48 view

象牙と聞いてみなさんは、その美しさと希少性、そして長い歴史を思い浮かべるのではないでしょうか。
この自然からの贈り物は、印章だけでなく、世代を超えて芸術や工芸の世界で大切にされ、その価値が高く評価されてきました。
しかしインターネットで象牙について調べる際には、しばしば情報が不足していたり、不正確だったりすることがあります。

そのため当ページでは、実際に象牙を取り扱う職人の意見を取り入れつつ、象牙の種類や特徴、なぜ特定の印材が希少なのかについて、詳しく解説します。
目指したのは、正確で詳細な情報を提供することです。
ここでは象牙の品質だけではなく、その歴史的な価値や、国際法による保護措置にも焦点を当て、象牙について多角的に理解を深めることが目標です。
最後まで読むことで、誰よりも象牙について詳しくなれるでしょう。

象牙の品質に関わる「1.部位」「2.硬さ」「3.希少価値」「4.生息地」をまとめました

象牙というと、一見シンプルな素材のように思えますが、その種類は驚くほど細かく分かれており、牙から取れる部位、牙の硬さや柔らかさ、さらには産地によっても品質が大きく異なります。
天然素材である象牙の品質を判断するには、これらの様々な要素を考慮する必要があり、非常に複雑です。

多くの方が「どの象牙が良質なのか?」と疑問に思うことでしょう。
これを理解するためには、関連する情報を総合的に理解することが重要です。
そこで、象牙の品質について「1.象牙印材の話」「2.全形象牙の話」「3.希少価値の話」「4.象の話」といった順に詳しく解説していきます。

1.1本の全形牙から取れる場所で違いがある(印材の部位の話)

上のイラストは「全形牙(ぜんけいきば)」と呼ばれるもので、一本の大きな象牙全体を指します。
全形牙から、象牙の印材として様々な部分が切り出され、その種類は大きく分けると4つになります。

 1.縦目
 2.縦目芯持
 3.横目
 4.横目芯持

印材に対して「縦」に取るか「横」に取るか、そして「芯」があるかどうかの4つに分かれます。
では次に具体的にそれぞれの違いについて見ていきましょう。

①縦目

一般に流通している象牙のほとんどは、この「縦目」と呼ばれる、牙に対して根付から先端に向かう方向に向かって切り出したものです。
以下の写真は全形牙を輪切りにしたもの。

中心に近いほどキメが細かく、数が取れない貴重品になります。
また各部位の名称はお店によって異なりますが、弊社では以下のように区別しています。

中心に近い極上が最も価値が高く、逆に並はヒビが入る可能性があります。
象牙の取れる位置による品質の違いについてさらに詳しく知りたい方は、以下のブログをご覧ください。

補足として、上記画像で示されたランクの象牙は、特別に優れた上質のものに限定されます。
実際には、象牙全体の約半分が切断後に「並」と評価されるため、全てが「極上・特上・上上・中」になるわけではありません。
つまりこれらのランクを持つ象牙自体が、高い希少性と高い価値を有しているのです。
さらに「ハード」と「ソフト」という牙の硬さによる分類も価値を左右しますが、これについては後ほど詳細を説明します。

②縦目芯持

縦目芯持」とは、印材の中央に一筋の線が見られるタイプを指します。
この線は、通常は穴が開いてる場合がほとんどですが、稀にその穴が埋まっているものもあります。
また縦目芯持の象牙は、「ハード」と「ソフト」、つまり牙の硬さによって大きく価値が異なります。

具体的には、ハード象牙はその貴重さから高く評価されますが、大抵の場合、中央の芯部分には大きな穴が開いています。
一方でソフト象牙はハード象牙よりも品質が劣るとされますが、芯の穴は比較的小さくなります。
そのため市場で「縦目芯持」として流通している象牙の大部分はソフトな素材です。
しかし、稀にハードな素材でありながら芯が埋まっている「眠り芯」と呼ばれる非常に希少な象牙も存在しますが、これは市場にほとんど出回っていません。

象牙に詳しい人々の中には、芯持材に対して「芯が開いているため印鑑として機能しない」「芯の部分が弱いため使用に耐えない」といった否定的な見解も存在します。
理由はこれまで述べたとおり、ハードな象牙では芯の穴が大きく、ソフトな象牙では芯が弱いためです。
にもかかわらず、埋まった芯を持つハードな素材や、強度な芯を持つソフトな素材が存在することは、そのような象牙が市場にほとんど流通していないため、あまり知られていません。

さらに、芯部分の模様は個体によって異なり、特にメスの象牙は美しい芯を持つことが多いです。

【縦目芯持まとめ】
・縦目印材の一種で、象牙の中心にある芯が、印材の中心に入っている 
・ソフト材でも芯部分が綺麗なものは少ないため、芯持印材にできるソフト材は数が少ない
・ハード材の芯はほとんどが穴があいているので、芯持印材にできない
・稀に芯に強度があるソフト材や、芯に穴が空いていないハード材がある
・メス牙(細長く、付根から先端までの勾配が少ない)は綺麗な芯を持つことが多い  

③横目

次に希少象牙の代名詞である「横目」について説明します。
主にソフト材から得られる横目は、そのユニークな切り方によって特徴的な丸い輪を形成します。

横目の切り出し方を示す線図では、円形が縦目を、長方形が横目を表します。

一般的に「日輪」と称される横目は、象牙の美しさを際立たせる印材として知られています。

通常、象牙は牙に沿って平行に(縦目として)切り出されますが、横目は牙の芯を中心に垂直に(横目として)切り出すことで、豪華な模様を生み出します。
この模様は「太陽の輪」に例えられ、縁起が良いとされています。
模様が美しい横目が特に価値があるのは、取れるソフト材が限られていること、また小さな牙からしか得られないためです。

また、横目の彫刻は職人の技術を最も問います。
繊維が横向きになっているため、彫刻が難しく、少しの力で材料が剥がれやすくなります。
縦目の場合は、彫刻面の繊維が立っており、彫りやすく、外圧に対する耐性も高いです。
しかし横目では繊維が横になるために、熟練した職人でさえも慣れと適切な道具が必要とされます。
鋭く薄く研がれた刃物を使うことで対応可能ですが、これを実行するのは容易ではなく、できる職人は非常に少ないと言えます。

【横目まとめ】
・主にソフト材から取れる
・シマの濃い象牙を使い、芯の上下などから切り出した印材で、側面に丸い円が現れる印材である  
・その模様が太陽の輪に見えることから「日輪」とも呼ばれている
・シマの濃い象牙は小さい牙からしか取れず、大変希少である  
・彫り手の技術を最も問う印材である

④横目芯持

ここまでで、はっきりとした模様がある横目が、いかに貴重であるかをお伝えしてきました。
その横目模様の中心に芯がある「横目芯持」はさらに珍しく、その数はさらに限られてきます。

写真でご確認いただけるように、横目模様の中心にある黒い点が、まさにその象牙の芯です。
この存在が象牙の価値を一層高めています。

もう1度、先にご紹介したイラストに注目してみてください。

象牙の全形の中心を走る赤い線は、実は象牙内部を通る神経を示しています。
この神経が作る穴は、根元に近づくほど大きくなり、先端に向かうにつれて細くなります。
そのため芯が完全に詰まっている象牙は極めて稀であり、芯が明瞭で美しい象牙はさらに希少価値が高いと言えます。

【横目芯持まとめ】
・主にソフト材から取れる
・はっきりした日輪模様は、小さい象牙からしか取れない
・中心に芯があり、その周りに綺麗なシマが現れるのはさらに少ない
・芯の穴が詰まっているのは稀である
・彫り手の技術を最も問う印材である

2.牙自体に硬さの違いがある(全形牙の硬さの話)

一般にはあまり知られていませんが、その硬さと特性によって「ハード」「ソフト」「唐方(とうかた)」と、3種類の全形牙が存在します。

■ハードの特徴
硬さが特徴で、光沢と艶があります。水生地(みずきじ)と呼ばれる象牙は、トロッと透けるようなピンク色をしている。しかし白い斑点や見栄えの悪い模様が現れやすく、芯に近い部分を取ろうとすると黒っぽくなりがちで、歩留まりが悪い。

■ソフトの特徴
柔らかく、乳白色で少し赤みがかった黄色をしている。模様はハード象牙と比べて違いは少ないものの、シマが目立ち、艶は劣る。現在市場に多く出回っているのはこのタイプで、シマや色の不均一を隠すために漂白処理されたものも少なくない。

■唐方の特徴
ハードとソフトの中間的な硬さを持ち、黄色みがかったアイボリー色が特徴で、この美しい色合いは他とは比べようがないほど。この名称は幻のアジア象を総称するが、日本から見て中国(唐)の(方面)がその名の由来。

硬さの違いが出る理由

象牙の硬さに差が生じる理由を説明します。象牙は、主に食糧を取得するために使用されます。

  1. 地面を掘って木の根を食べる
  2. 牙で木の皮を剥ぎ、樹皮を食べるため
  3. 邪魔な木を牙で持ち上げてどかすため

赤道直下の熱帯雨林では、湿気を多く含む太くて大きな木が豊富に存在します。
これらの木に適応するため、該当する地域の象の牙は非常に硬くなる傾向があり、これがハード材になります。
また食べる植物の種類や遺伝的な要因も、牙の硬さに影響を与えます。

このようにして象牙はハード、ソフト、そして唐方という異なる硬さを持つようになります。
一般的にハードな象牙はより高品質とされ、ソフトな象牙よりも価値があるとされていますが、唐方象牙はその希少性から他とはまた異なる特別な価値を持っています。

硬さの違いまとめ

ハード:高級象牙に使用され、耐久性も非常に高い(森林象・サバンナ象)
ソフト:比較的安価に入手することができるが、耐久性は劣る(サバンナ象)
唐方:彫刻に最適な硬さで、明治前後の彫刻品によく使われていた(インド象)

象の種類に関しては後述します。

3.希少性と取得の難しさ(希少価値の話)

象牙の様々な部位と全形牙の違いについて説明してきましたが、これらの情報の多さに驚かれた方もいるかもしれません。
次に「部位の違い」と「象牙自体の特性」を組み合わせ、希少性が高いものから順に紹介します。

希少価値は、単に取れる割合だけでなく、市場での流通量によっても決まります。
例えば過去には豊富に採取されたが、現在ではほとんど市場に出回っていないなどの理由です。

希少価値 種類 とれる割合 流通量
1 インド象/唐方 0.01% ×
2 縦目芯持/ハード 0.001% ×
3 縦目芯持/ソフト 0.2%
4 横目芯持/ソフト 0.25%
5 縦目極上/ハード 0.25%
6 横目/ソフト 0.3%

提示された割合は、あくまで感覚値であることを補足しておきます。
これは、これまでに採取された象牙の総量が不明な点や、将来切り出す象牙がどのランクに属するかを切り出すまで確定できない、といった理由によります。
また特に、ランク1と2の象牙は極めて希少であり、現在ではほぼ入手不可能な状態にあることを明記しておきます。

ここまでで象牙の印材に関する説明を終えます。
次に象牙を提供する象自体についての情報に進みます。

4.象の種類と特徴(象の種類と生息地の話)

ここまでで象牙の種類や希少性について一通り解説してきました。
また新たに「インド象」というワードも登場しています。
象牙について詳しく知るためには、そもそも象牙を保有する象について知る必要があります。
では次に、象についてご紹介します。

まず象牙全体で分けると生息地で分けられ、大きくは「アフリカ象」と「アジア象」に分けることができます。

アフリカ象

森林象とサバンナ象を総称して、アフリカ象と呼びます。

森林象(マルミミ象)

生息地:カメルーン・ガボン・コンゴ・中央アフリカ、などの中央アフリカなどの熱帯雨林。
特 徴:体は一番小さい・耳はサバンナ象より小さく、インド象より大きくて四角い・牙はサバンナ象よりも小さく、インド象よりも大きい・頭が丸い
象 牙:ハード

森林象(マルミミ象)の詳しい生息地はこちらのサイトをご覧ください

サバンナ象

生息地:ナミビア・ジンバブエ・ボツワナ・南アフリカなどのサバンナ地帯。
特 徴:体は一番大きい・耳は一番大きく三角・牙は一番大きい・頭が丸い
象 牙:生息地域によって異なり、草原地帯や砂漠に住むゾウはソフト材、 熱帯雨林に住むゾウはハード材である

ソフト材を持つサバンナ象の詳しい生息地はこちらのサイトをご覧ください

アジア象

アフリカ象と比べて数が少ないインド象を含んで、アジア象と呼びます。

インド象

生息地:ネパールからインド、ブータン、バングラデシュなどを経て、ミャンマーやタイなどのインドシナ半島やマレー半島、中国・雲南省南部の一部などに分布。
特   徴:体はサバンナ象より小さく、マルミミ象よりも大きい・耳は一番小さく四角い・牙は一番小さい・頭が2つに割れている
象   牙:ミディアム

インド象については情報が特に少ないため、詳細をここで補足しておきます。

1.まぼろしの象牙
・アジア象はアフリカ象に比べて象牙も小さく、生息数も少ないことから、過去のアジアゾウの象牙輸入量は少なく、元来貴重な素材だった。
・アジア象の象牙の国際取引が規制されたのがアフリカゾウの1989年より前の1975年と今から半世紀近く前であることもあり、今ではまぼろしの象牙と言われている。
・以上の経緯もあり、今では国内にアジアゾウの象牙はほとんどない。
2.アジアゾウの象牙の特性(独特のツヤと重量感)
・明治・大正の頃は、日本の外貨獲得に貢献する輸出産業として「牙彫」産業が活発だった。
・その頃使用されていた象牙の多くはアジア象の象牙だと言われている。
・1867年のパリ万博には、東京美術学校(現東京芸術大学)「牙彫科」の教授でもあり、牙彫会でも有名な「石川孔明」氏が手がける象牙彫刻等も出展された。
・アフリカ象のハード材の固さと、ソフト材のしなやかさの双方の良さを持つ。
・適度な粘り気と固さを持ち、彫刻に適した素材であり、独特のツヤと重量感を有する、印章の最高峰の素材。

このように居住環境によって象の体質が異なり、それに付随する象牙も違ってくることがわかります。

象牙の価値と象徴性

象牙は古くからその希少性、美術的な価値、そして加工の難しさにより、高価であり権力の象徴とされてきました。
王族や貴族によって大切にされ、富と地位の証とみなされてきたのです。
社会の上層部では、装飾品、宗教的な物品、美術品の素材として象牙が広く用いられ、象牙が持つ特別な価値観と象徴性が反映されています。
この豊かな歴史が、現代でも象牙製品を価値ある素材として位置づける基盤となっています。

象牙の美術的・機能的価値

さらに象牙の美術的および機能的価値は、その象徴的な重要性を超えて広がりを見せています。
特有の質感と色合いが、世代を超えて様々な細工品や高級芸術品のための素材として好まれてきました。
非常に細かな彫刻が可能なため、象牙は印材だけでなく、宗教的なアイテム、日常用品、楽器など、多岐にわたる作品で活用されてきました。
この汎用性と歴史的価値が、象牙を洗練と芸術の象徴として今に伝えています。
そしてこの価値は今日でも、貴重なギフトや高級な装飾品として受け継がれています。

象牙の取引に関する国際法や保護

現在日本では、ワシントン条約(CITES)の規定に従い、特定の条件を除いて象牙の商業取引が基本的に禁止されています。
この条約は、種の保存を目的として象牙の取り扱いを厳格に管理することを求めており、決議10.10を含む関連する決議に基づいています。
このような取り組みは、象の保護と地域社会の発展に貢献することを日本が目指すものです。

  • 種の保存法に基づき、象牙の利用は自然死や加害個体駆除など、合法的かつ持続可能な方法で産出国に利益をもたらすことが可能
  • アフリカゾウの保全と地域の発展を促進する国々の取り組みを支援し、これらの国でのアフリカゾウの保護や地域住民との共生に貢献することができる

日本は厳格な管理のもとで合法的に輸入された象牙の利用を通じ、アフリカ象の密猟や違法取引を抑えながら、保全と持続可能な仕様の推進を図っています。

詳しくは日本の象牙利用の考え方に関する環境省の方針をご覧ください。

最後に

象牙に関する知識を深めることで、単に印鑑として、また美術品や装飾品として取り扱ったり鑑賞したりすること以上の意味があるのではないでしょうか。
象牙の各部位や種類、それぞれの特性を深く理解することで、ご自身の選択の一助になれば幸いです。

自然から授かったこの素晴らしい資源を深く知ることは、私たちの文化や歴史そして環境への敬意にもつながります。
この記事を通して、象牙についての知識が豊かになり、またあなたにとってその価値が高まることを願っています。

鈴印

〜印を通してお客様の価値を高めたい〜

鈴木延之
代表取締役:株式会社鈴印

1974年生まれ。
A型Rh(+)

1932年創業、有限会社鈴木印舗3代目にして、現プレミアム印章専門店SUZUIN代表取締役。専門店として、印章(はんこ)を中心としたブログを毎日発信。本業は印章を彫る一級印章彫刻技能士。
ブログを書き出したきっかけは、私の親父が店頭で全てのお客様に熱く語っていた印章の価値や役割そして物語を、そして情報が散見する中で印章の正しい知識を、少しでも多くのみなさまに知っていただきたいから・・・
だったのに、たまに内容がその本流から全く外れてしまうのが永遠の悩み♡

一級印章彫刻技能士
宇都宮印章業組合 組合長
栃木県印章業組合連合会 会長
公益社団法人全日本印章業協会 ブロック長

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