突然ですが「鹿の角」って聞いて何を連想しますか?
個人的には・・・

インディアンジュエリーですね。
もともとアクセサリーの類が好きでしたが、特にネイティブ系には目がなかった。
なので鹿の角のネックレスなんてのも、持っていましたね。
革紐と言えば一番丈夫なのは鹿ですから、シルバーアクセとコンビなんてもありましたし、印伝も鹿革を使っていますから、気がつくと今でも身の回りにはたくさんあります。
私の趣味嗜好はさておき、今回はハンコのお話です。
以前からたまにご注文をいただいていたんですが、鹿の角のハンコがあるのはご存知でしょうか?
多分ほとんどの方が知らないと思います。
ググっても全く出てきませんし、たまに見かけると「鈴印ブログ」。
そうなんです。
どこにもないんですけど、鈴印では取り扱っているんです。
2014年2月12日に公開したブログですが、2022年12月13日に大幅リライト、ならびに2026年4月18日に微調整リライトしました。
鹿の角の印

実は私自身もそれまで彫った経験はなかったんですが、きっかけはお客様の声でした。
アクセサリーとして所有していた経験もありますから、なんとなく想像はつきました。
角なので、水牛の角ように硬さはあると考えられます。
水牛の角は人間の爪と同じ成分ですから、多分似たようなものだろうなと。
とは言え改めて現物を見て、触って、軽く彫ってみないとなんとも言えません。
最悪ハンコにはならない可能性をお伝えして、お預かりすることができました。
すると予想通り、水牛に限りなく近い素材であることがわかり、トライすることにしました。
とは言え一般的に流通していないのには必ず理由があります。
詳しく見ていくと、よくわかりました。
鹿の角をハンコにするのは非常に難しい

鹿の角も多種多様で、前述の画像のように黒っぽいものや、こちらのように白っぽいもの。
今回特別に白っぽい角を入手できましたので、参考に1本彫ってみましたので、その流れをご覧ください。
1.芯の穴を埋める

こちらは鹿の角の印面部分になります。
中央に多数の穴が見えますが、おそらくこれが印材として使われない理由です。
なぜならいくら綺麗に彫っても、この穴の部分は全て写りません。
穴だらけでは登録印はもちろん、認印として使うにも問題ありです。
そのため最初に埋めます。
2.穴開け

1つ1つ埋めていたのでは埒が開きません。
そのためまとめてくり抜いて、他の何かを差し替えます。
まずは深くくり抜きます。
新たに突っ込んだ何かがしっかり固定されるように深く。
次に埋めます。
3.穴埋め

ここは印材になるくらい硬い素材であればなんでもいいと思うのですが、やはり素材感が似ている水牛が親和性が高いだろうと。
そのため水牛の角を、穴に形に合わせて削り出します。
そして埋めます。

ここでポイントになるのは、奥深く入りつつ、隙間を無くすこと。
僅かな隙間も当然「穴」になってしまい、捺印の際の穴になるため、丁寧に整形します。
そのままでも動かないほどの状態にしますが、念のため接着剤で固定し一晩置きます。
4.切断

固まったら飛び出た部分の切断です。
ここは単純に切り落とします。
5.面丁(めんてい)

印鑑は、どれだけ印面が平であるかが命になります。
そのため丁寧に丁寧に行います。
6.判下作成

ここからは通常の手彫り工程と一緒ですので、ざっくりとお送りします。
まずは材料のアウトラインをカーボンシートで取ります。
使用する紙は、逆さまに転写できる雁皮紙。

外側のアウトラインが抽出できたので、次に雁皮紙に筆で文字を書いてきます。

ひとまず完成です。
7.転写

先ほどの雁皮紙を逆さまにして印面に転写させることで、鏡像になってハンコ用の印面が出来上がります。
上から水を垂らしで擦ると、蒸発する熱で転写ができます。
って言っても超ムズいんですけどね。

綺麗に転写できました。

8.荒彫りと仕上げ

文字以外の部分をざっくりと彫り、次に仕上げていきます。
9.仕上がり

10.完成

とりあえずその辺にあった鹿革紐とビーズをつけて完成。
チョーカー的に首に巻いてもいいですし、バッグにぶら下げるのもありですよね。
最後に

鹿の角をハンコにする流れは、以上のような工程になります。
やはり最大のポイントは、芯の部分の穴をどう処理するか。
ここで仕上がりの精度が大きく左右されます。
そしてもうひとつ大事な点があります。
それは「そもそも対応できる職人がほとんどいない」ということです。
実際にお持ち込みいただくお客様の多くが、「いろいろ探したけど断られた」とおっしゃいます。
理由はシンプルで、
・内部構造が特殊(穴が多い)
・均一な素材ではない
・通常の印材とは全く別物の加工が必要
といった点から、一般的な印章の延長では対応できないためです。
そのため鈴印では、素材の状態を見極めた上で、ひとつひとつ手作業で調整しながら仕上げていきます。
なお彫刻料は、27,000円(税別)〜。
素材の状態や加工難易度によって変動しますが、通常の印材と比べて工程が大幅に増えるため、このような価格設定となります。
そして気になる点として、
鹿の角でも実印登録は可能です。
もちろん各自治体の規定サイズ内である必要はありますが、問題なく登録できます。
つまりこれは、
世界にひとつだけの実印ということ。
アクセサリーとして身につけながら、いざという時には印として使う。
そんな使い方も、この素材ならではの魅力ではないでしょうか。
もし鹿の角をお持ちでしたら、まずは一度状態を確認させてください。
写真をお送りいただければ、製作可能かどうか判断させていただきます。
また、現在は流通していない素材のため、
材料の状態によっては製作できない場合もございます。
その点はあらかじめご了承ください。
好きな方には、間違いなく刺さる一本です。
【追記】
2022年12月15日に鹿の角(1本)を入手いたしました。
こちらは材料代無料にて対応可能ですので、ご興味のある方はお早めにご検討ください。
