日本語で一番画数の少ない文字は、ご存知の通り「一」です。
お名前として「はじめ」さんなど、1文字名として使われる方も多いですし、一条さんなどお苗字の一部として使われる方も多いです。
そしてこの文字がお名前に入っている方はみなさん「印鑑にしたらスカスカにならないの?」なんて疑問を持たれています。
そのため一度ブログにまとめておきたいと思います。
一の漢字を印鑑にするとスカスカにならない?
「一」さんを名前だけで彫るとこのような↑デザインを想像する方が多いようです。
もちろんこれも正解です。
そして「元の漢字を大事にしたい」なんて方は、このデザインをご希望されます。
一方で「印鑑にしたときにスカスカにならない?」なんて気にする方もいます。
ちなみにフォントには以下のような文字もあり、実際に提案しているサイトもあります。
これも正解です。
印鑑の場合、線を伸ばしてグネグネ曲げても、元に戻すと「一」になればOKという考え方があります。
この考えは、九畳篆(くじょうてん))という中国の宋・元の時代に印篆を崩した文様を意匠化し、幾重にも曲がりくねらせた線で構成された篆書の考え方をもとにしています。
ちなみに本格的な九畳篆の場合、以下のようになります。
この文字をみると、ラーメンのどんぶりの縁を思い浮かべる方も多いようです。
鈴印としては特に私の場合は、上記のいずれも使用した実績があります。
お客様のご希望に応じての場合もありますが、最も大きな理由は他の文字とのバランスになります。
ですが、基本的には創業以来引き継がれているこの文字を使います。
「一」=「弌」
もちろん独断で考えているわけではありません。
ちゃんと根拠がないと印鑑登録できなくなってしまいますので。
根拠は以下になります。
こちらは篆刻字林。
古文又ハ籀文(ちゅうぶん)の項目に表記があります。
ちなみに籀文は、篆書よりも古い文字になります。
また印篆の項目にも似た文字がみられます。
つまり「一」=「弌」ということになります。
そして鈴印ではこのようにして使用しています。
確かに「一」には見えないかもしれませんが、漢字のルーツには正しく則っていて、かつ躍動感のある文字になります。
またたとえば仮に「勅使河原一」さんの場合でも、鈴印では基本的には姓と名を分け、九畳篆の考えを反映し、伸ばして曲げて「一」の線数を増やしていきます。
なんとなく実印らしくなってますよね?
ちなみに今回の文字は全て篆書ですが、印相体にする場合は、それぞれの線を伸ばして繋げていけば完成となります。
最後に
以上のように「一」を使った印鑑は、デザインによってスカスカにならず、むしろ美しく、実用的な印影を生み出すことができます。
しかもシンプルながらも、拡張や装飾を施すことで個性を持たせることが可能です。
私が手書き文字にこだわる理由は、古文や籀文に則った正統な形で表現しつつ、九畳篆の手法を取り入れて線を曲げるなどして、躍動感のあるデザインを表現することができるからです。
創業以来鈴印では、文字の組み合わせやお客様のご要望などに合わせて、伝統的なルールに則りながらも、現代の感覚に合った印鑑を作成しています。
そんな一部をご理解いただけましたら幸いです。