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ハンコの代わりに拇印(指紋)は使えるのか?

  1. 印鑑制度
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みなさんの中には、手元に印鑑がなくて「拇印を押してください」と言われたり、逆に「印鑑でなければダメです」と言われたことがある人もいるのではないでしょうか?
私自身の体験としては交通違反で拇印を押すように言われたことがありますが、個人的にはあまり気持ちのいいものではありませんでした。
これは多分はハンコを押すことに近い感覚、いわゆる証拠が残る感覚があるからなのかもしれません。

いずれも印(しるし)を押す行為には変わりませんが、果たして明確な線引きがあるのでしょうか?
今回のブログでは、そんなみなさんに疑問に詳しくお答えしてきます。

拇印とは

拇印(ぼいん)とは、親指に朱肉や墨を付けて、文書に押す指紋のことです。
少しだけ補足しますと、親指以外で押した場合は指印(しいん)と呼ばれ、親指で押した印影を拇印と呼びます。
映画やドラマなどでもご覧になったことがあるかもしれませんが、日本では古くから使用されてきました。

拇印は印鑑の代わりになるの?

拇印(親指の指紋)は印鑑の代わりになることがありますが、その使用範囲と法的効力は状況によって異なってきます。

例えば実印の場合は、印鑑登録されている印鑑のことを指し、不動産登記や公正証書など、実印の使用が法律で義務付けられている場合があるため、拇印は実印の代わりになりません。
一方で認印(日常的に使われる印鑑)の場合は、法律で明確に定められていないため、合意があれば拇印を使用しても問題はありません。
ただし、拇印の法的効力を明確に定めた法律は存在しないため、印鑑と同等とみなされる法律もありません。

ちなみに裁判での個別の判例があるため、場合によっては拇印が印鑑の代わりとして認められることもあります。
また、契約は口頭でも成立することがあり、書面による契約はトラブル防止のためです。
そのため、拇印を使用した契約書には一定の効力があり、特に双方の合意がある場合は、記名押印や署名捺印として自由に設定できます。
しかし、裁判での意思表示の証明には、自筆の署名と拇印の組み合わせが望ましいとされています。

では次に具体的な事例や裁判の判例を見てきたいと思います。

具体的な事例

役所などでの手続き

役所での手続きの際に拇印が印鑑の代わりに使用できるかどうかは、各自治体の規定によって異なるためどちらとも言えません。
最近では押印を求めない自治体も増えてきているため、簡易の文書においては印鑑を求めていませんので、同じ理由で拇印がなくても手続き上問題ないと思われます。
もし詳しく知りたい場合は、住民票のある自治体に直接問い合わせてみてください。

警察に違反切符を切られた場合

冒頭で私の体験でも述べましたが、警察に違反切符を切られたときに、「交通反則切符」に左手人差し指の指印と署名を求められます。
指印と署名が必要な理由は本人確認のため。
そのため指印の代わりに拇印でもまた印鑑でも、あるいは押印そのものを拒否しても問題ありません。

参考ですが、この経験で疑問に思われるのは、なぜ左手の人差し指を指定されるのかだと思います。
これは日本の警察において左手人差し指と指定しているから。
ルールを決めないと混乱をきたすため、そのように統一してあるだけです。
ちなみに目的は書類の内容を読み、本人であるという証拠。

私自身が感じた気持ちの悪さは気のせいであって、あくまで署名捺印と本人確認だけです。
この場合は他の目的に使われる可能性はほぼないようで、ドラマで指紋のデータを照合するシーンも見られますが、これは刑事事件で採取された指紋に限られるようです。

ちなみに捺印の拒否や、印鑑でも可能なのは違反切符のみ。
事件の容疑者として逮捕されてしまったときには拒否権がないのは、上記の理由となります。

具体的な判例

小切手の振り出し

小切手の振り出しに、拇印は無効とされています。

具体的には手形や小切手の取り扱いは手形法で規定され、記名捺印を含む署名に拇印が無効との判例が出されているからです。

拇印の押捺による手形や小切手の振出しは、指紋による鑑別が肉眼では不可能であり、機械力を借りる特別の技能を要するため無効
(大判昭7.11.19民集11巻20号2120頁)

自筆証書による遺言

自筆遺言に拇印を使用することは有効とされる判例があります。
遺言者が印鑑の代わりに拇印で捺印する場合がこれに該当します。

以下の判例があります。

自筆証書によつて遺言をするには、遺言者が遺言の全文、日附及び氏名を自書した上、押印することを要するが(民法九六八条一項)、右にいう押印としては、遺言者が印章に代えて拇指その他の指頭に墨、朱肉等をつけて押捺すること(以下「指印」という。)をもつて足りるものと解するのが相当である。
(最判平1.2.16)

【参考】
(民法第968条)
1 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。

とはいえ、後日有効性を争われないためにも実印を押印すべきです。
実印で押印することで印影を対照可能になりますから後日の紛争抑止になります。

最後に

以上、拇印と印鑑の違いや法的効力、そして具体的な使用例について詳しく解説してきました。
拇印が印鑑の代わりとなるケースもありますが、その法的効力や使用範囲は状況によって異なることが理解できたと思います。
自筆証書による遺言の場合に有効であることや、小切手の振り出しには無効であることなど、具体的な事例を通じて、印鑑と拇印の使い分けについての理解を深めていただけたのではないでしょうか。

拇印も印鑑も、それぞれの場面で重要な役割を果たすことが分かりました。
この記事が、みなさんの日常生活や仕事での判断に役立つ情報を提供できていれば幸いです。
もし疑問や不明点があれば、専門家に相談することをお勧めします。

 

鈴印

〜印を通してお客様の価値を高めたい〜

鈴木延之
代表取締役:株式会社鈴印

1974年生まれ。
A型Rh(+)

1932年創業、有限会社鈴木印舗3代目にして、現プレミアム印章専門店SUZUIN代表取締役。専門店として、印章(はんこ)を中心としたブログを毎日発信。本業は印章を彫る一級印章彫刻技能士。
ブログを書き出したきっかけは、私の親父が店頭で全てのお客様に熱く語っていた印章の価値や役割そして物語を、そして情報が散見する中で印章の正しい知識を、少しでも多くのみなさまに知っていただきたいから・・・
だったのに、たまに内容がその本流から全く外れてしまうのが永遠の悩み♡

一級印章彫刻技能士
宇都宮印章業組合 組合長
栃木県印章業組合連合会 会長
公益社団法人全日本印章業協会 ブロック長

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