ここでは、印鑑に関する法律知識の署名捺印と記名押印について解説します。
似たような言葉ですが、意味合いも違い、また法律上の扱いも異なっています。
法律知識のため一見難しく思えますが、噛み砕いていくと非常にシンプルな内容です。
それぞれの重要度や契約においての役割も併せてご紹介しますので、契約する前に理解して、安心してその席に望めることでしょう。
署名捺印と記名押印の違い
似たような文言が続きますが、分解すると「署名」「記名」+「捺印」「押印」の4つの言葉に分かれているだけです。
まずはその違いを見ていきたいと思います。
署名と記名
署名:本人が鉛筆やボールペンなどで書いた名前
記名:ゴム印やPCフォントで作った名前
つまり署名と記名の違いは、自署かそうでないかの違いになります。
大きな違いは法的に意思が認められるかどうか。
署名は、民法
第299条の筆跡鑑定において、署名と署名した本人との真正を推定することができることで、意思の証明と認められます。
記名は、第三者でも作成できるため、本人の意思があることは証明できません。
捺印と押印
捺印:署名捺印が略された呼び名
押印:記名押印が略された呼び名
つまり呼び名が違うだけで、意味合いは同じということになります。
署名捺印や記名押印の重要度の違い
ここまでで法律において、自署かどうかが重要であることがわかりました。
では次に、名前に印鑑が+された場合の証拠価値について見ていきたいと思いますが、先に結論から申し上げます。
※印鑑=実印の場合
①署名捺印(手書き+印鑑)
②署名(手書きのみ)
③記名押印(ゴム印やPC文字+印鑑)
④記名のみ(印刷)※正式な効力は認められない
【法的証拠価値】
①・②・③は同じ。
民事訴訟法第228条、文書の成立第4項に「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する」とあるため、「本人の署名」又は「本人の押印」どちらかがあれば適用される。
つまり①・②・③は、条文上同じ証拠価値になりますが、直筆かどうかは筆跡鑑定等が必要にも関わらず、それ自体立証が非常に難しいことから、裁判では実印が押してあるかどうかが最も重要で、手書きと記名はほとんど差がない。
つまり署名か記名よりも、実印が押してあるかどうかが大きな決め手となっています。
サイトによっては①>②>③>④のような表記が散見されますが、この違いは前述した筆跡鑑定がポイントになります。
法律上は、筆跡鑑定によって本人かどうかが推定されるとありますが、実際には立証が非常に難しいんですね。
ちなみに欧米での契約がサインで通用する理由は
- 小さい頃からサインの練習を繰り返し、同じものが書ける
- サイン証明によって、本人確認ができる
- 契約を成立させるための第三者機関の公証人が多数いる(日本では交渉人の数が少ないため、印鑑登録制度となっている)
上記が成り立っているからなんですね。
詳しくはこちらをご覧ください。
ちなみに3.は日本の場合、交渉人の数が少ないため、印鑑登録→発行することで、役所が第三者機関になっています。
またシンプルで再現性の高い英語に対して、細かく複雑で再現が難しい漢字を使っていることも大きく影響します。
つまり厳密に比べるなら、①>②>③>④のようになりますが、実際には①=②=③>④となっています。
あつらえた印鑑と、既製印の違い
こちらも結論から申し上げますと当然ですが、あつらえた印と既製印での違いはありません。
そしてここでポイントになってくるのは、上記の③記名押印(ゴム印やPC文字+印鑑)になります。
法的証拠価値が、署名か記名よりも、実印の有無の方が重要であることがわかりました。
つまり実印の複製が最も怖いことになります。
最近では「印影はスキャンして簡単に偽造できる」や「印章自体を3Dプリンタで複製する」などとまことしやかに囁かれていますが、作り手から言わせますと机上の空論で、実際には非常に困難で不可能に近いです。
なぜならスキャナースキャンし加工する度にアウトラインは太っていきますし、3Dプリンタで作るにはリアルの印章、もしくは印面データが必要になります。
また印章ほどの細かさにも対応できませんし、いずれにしても現実的ではありません。
つまり恐れることは複製ではなく、同一印影であることになります。
同一印影=同一印鑑
簡単にいうなら既製印です。
大量生産印はある程度種類も限られていますから、比較的簡単に入手することができます。
そのため法的証拠価値の複製を避けるのであれば、既製印ではなく、同じものが2つとできないオーダー印が安心です。
最後に
一般的には、署名が一番法的効力が高いと思われる方も多いのではないでしょうか。
ところが実際には自分が書いたかどうかよりも、証拠能力が高いかどうかが最も重要になります。
そして日本の場合は、印鑑登録制度、つまり実印になります。
そのため今後契約を交わす場合は、署名か記名かも大切ですが、印鑑がオーダーなのか既製印なのかも併せて確認した方が安心ですね。