今日はお客様の言葉です。
そのお客様はある言葉を私に伝えて下さいました。
難しい名前
そのお客様はもはや人生の酸いも甘いも熟知されたベテランと言っても過言ではない方。しかも日頃から捺印を多く繰り返されるご職業の方。そんなハンコに精通された方がなぜ今ご自身の実印を作り直すのか不思議な位でした。
訳を伺いますと「私の名前は名字が3文字、名前が1文字。しかも画数の多い文字と少ない文字の混在で、どうやらはんこ屋さん泣かせらしいんです。文字数を揃えるのに『印』の字を入れられちゃったり、なんて書いてあるかさっぱり読めなかったり、あとは何か分からないけど凄く雑な感じだったりね。今まで何度か作り替えたんですけがどれも気に入れなくてね。だから作り替えたいんです。あなたなら任せられると思ってね。」
いやいや確かにおっしゃる通り、ホント難しいんです。
だからそれこそあちこちの辞書を調べましたね。
実印の見た目を良くするためのコツは色々あります。職人によってもこだわる部分は千差万別です。
ちなみに鈴印の文字は初代より一貫して「空間をできる限り均一にする」というのがあります。
極端な言い方をすれば、線の数が揃っていればお名前の文字数は関係なく空間が均一になりますからね。
それだけでバランスよく見えます。
そして手彫りの場合は最終的には感覚です。数字上の数は合っていても見た目がおかしければ微調整しますし、それより何よりお名前ですからね。その意味も踏まえて最後は落としどころを見つけます。
とまあいつもそうなんですが、様々な試行錯誤を繰り返して、突然光がさすようにベストな文字が見つかります。
今回も自分なりに最高のバランスに仕上がった!と自画自賛したくなるほどの出来でした。
お客様の反応
自分なりに最高の仕上がりだったとしても、お客様が最高と思って頂けなければそれは最高の実印ではありません。
だから商品お渡しの際が一番緊張する瞬間かもしれません。
予定の日時にご来店頂き、いざご覧頂く瞬間。
「素晴らしい実印ができあがりましたね。どうもありがとうございます。」
そんなお言葉を頂きました。
が、なんか引っかかる感覚がありました。
なぜかは分からないんですがね、毎日ご注文を頂いて・彫って・お渡しする、の流れを繰り返してますからね、何となくですが「?」と感じる事がまれにあります。
「あれ?あまりお気に召さなかったのかな?」
「気のせいかな?」
そしてその答えは後日知る事ができました。
安心感のある実印と言われましたよ
そのお客様が後日、っていっても一週間も経たなかったですかね。
改めてご来店頂き、こんなお言葉を頂きました。
「先日はありがとうございました。あの後すぐに市役所に持って行ってね、早速実印登録の変更をしました。そこでね市民課の窓口の方がこうおっしゃったんですよ。『凄く安心感のある実印ですね。最近は怖い実印が多いです。違う文字が入っている実印だったり、すぐにも壊れてしまいそうな雑な実印だったり、なんか呪われてしまいそうな実印だったり。久々にこんな安心感のある実印を実印を拝見しました。』なんて言われましてね。それまで私が考えているのと同じ感覚をお持ちの方だったんですよ。
あなたには今だから言うんですけどね、実は最初に見たとき『あれっ?名前がちょっと大きいんじゃないかな?』なんて思ったんです。文字数が名字3文字で名前が1文字ですからね。でも窓口の方に話したら『そこがいいんですよ。きっとお名前を文字数としてでなく、お名前として彫られたんだと思います。そんな作り手の方の想いが伝わる実印ですよ。』なんか嬉しくなっちゃいましてね、だからあなたに伝えてくてね。」
印鑑を通してあなたの価値を高めたいの意味
鈴印の企業理念は「印鑑と通してあなたの価値を高めたい」です。
ハンコを押す事であなたの価値が高まる事を意味します。
そのためにはそもそものハンコがきっちり彫り上がってなければいけません。
綺麗な文字で綺麗に捺印できなければ、どんな環境で押しても評価されませんからね。
でもハンコは彫って完成ではありません。
その後みなさんが押して、それが相手の手元に渡ってはじめて成立します。
だから常にその先を意識して製作しております。
「いい判をお使いですね」そう言っていただける事がいつでも目標です。
が、実際その先の出来事を伺い知ることは希です。
でも今回その方の想いを聞き、それを理解しながら彫ることによって、その先にまで伝わる事を知りました。
人と人との想いが重なって、最高の商品が仕上がることを知りました。
最後はやはり想いなんですね。
企業理念の意味を教えていただきました。