先日、私も所属する公益社団法人全日本印章業協会が、要望書を提出するために自民党幹事長室を訪れた際に、二階幹事長より以下のコメントをいただいたそうです。
印章は日本の秩序である
その時の経緯はブログに書いてますのでそちらに預けまして、私としてはこのフレーズはまさに真意を得ていると思いました。
そもそも秩序とは
あちこち辞書を検索すると、概ね以下のようにまとめられています。
1 物事を行う場合の正しい順序・筋道。「秩序を立てて考える」
2 その社会・集団などが、望ましい状態を保つための順序やきまり。「学校の秩序を乱す」
この中で二階幹事長がご発言された意図は、2に該当すると思われます。
その社会・集団などが、望ましい状態を保つための順序や決まり
ではなぜ印章が秩序の役割を果たしてきたのかを述べてみたいと思います。
印章が秩序を守っている理由は、捺印が本人確認ではなく意思の担保だから
再三ブログでも書いてますけど、例えば行政機関に訪れた際にハンコが必要な理由は、本人確認じゃなくて意思の担保なんです。
意思の担保、難しい言葉ですけど要約すると、「内容をよく読んで理解し納得しましたよ」って意思を表す証拠ですね。
これは言った言わないを防ぐために必要で、窓口に訪れた人が「オッケーです」って言っても、あとで「言ってない」ってならないように印を押し、担当者が訪れた人の意思の担保のハンコを預かることでやりとりが成立って意味があります。
あとでトラブった時に「ここにハンコが捺してあります」って言うためですね。
社内の稟議書などに担当者全員の印を捺すのも同じ理由です。
この文書に関して全員が責任を持つように印を捺し、担当者の意思を明確にしています。
ちょっと前に小学生がまとめてくれましたけど、プールカードに親のハンコがないとプールに入れないってのも同じ理由です。
大切なお子さんを預かる学校ですから、もし子供が風邪ひいててこじらせたら責任問題です。
そのため毎回親御さんの意思の担保が必要なんです。
当然印章にはここに実印と銀行印も含まれすけど、意味合いは一緒です。
つまり印章を捺すことで、本人の意思の担保を預かり、その社会・集団などが、望ましい状態を保っているんですね。
サインで秩序を守れないのは、日本人のサインが不確かだから
一方で、それならサインの方が簡単じゃん?ってご意見もよく耳にしますけど、本当に簡単ですか?
比較される欧米では、同じサインが書けるように小さい頃から何度も何度も繰り返し練習します。
対して日本は?
そもそも漢字ですし、楷書できっちりなんて言われると緊張します。
行書もあれば草書もあるし、ややこしいことに旧字もあります。
渡邉さんは本当は旧字なんだけど、普段は面倒なんで「渡辺」って略字で書いちゃってますなんて、心当たりもあるのでは?
ならハンコの方が簡単じゃん!ってのがそもそものルーツです。
その時に気分で書体を変えたり、カッコつけてアルファベットにしちゃったりと、不確定なサインよりは、変わらない印影が残せるハンコの方が信用できる。
ちなみに行政手続きではシヤチハタ不可の理由も同じことで、シヤチハタはゴム印に属されますから、数年後には変形しちゃうため、証拠としては残せないんです。
行政手続きの押印廃止はデジタルが成長してきた証
ではなぜそれほどまでに秩序を守る役割を果たしてきた印章の一部がなくなるのか。
それはデジタルが成長してきた証だと思うんです。
私もそうですけど、日頃のやりとりってメールだったりLINEだったりします。
既読未読で意思の確認をしたりもしていますし、もしかするとできていないかも?なんて不安に思ったりして。
でもそもそもLINEでの約束で、何百万円もするような重要な約束交わしませんよね。
まあ極論を言ってしまえば、そこまで重要じゃない約束事にまで紙に印刷して印を捺す意味があるの?ってのが、廃止されると言われる押印なのかもしれません。
行政手続きの押印は、実際に私も「これなんの意味あんの?」って思うのがたくさんありました。
わざわざ役所に行かないといけないし、行ったら行ったで意味不明な押印を求められて再訪問。
これこそ時間の無駄ですよ。
「そこに押印を求める根拠は?」なんて聞いても、「規則となっていますので」の不明確な回答だったり。
なんでもかんでもとりあえず印を捺しておけば良い、から、本当に必要なの?って自問できるようになったんですね。
それができるのは不安要素はあれども、それだけデジタルが成長してきた証なんですね。
最後に
今行われている行政改革は、この意味不明なただの慣習である印をなくそうってことです。
今まではそれに変わる仕組みを作れなかったから、ハンコに頼っていた。
だって印をいただく方は、それで澄めば簡単で便利ですからね。
それがデジタルがここまで発達してきて、簡単な約束程度ならそれでいいじゃんって、ようやく思い腰を上げだした感じです。
つまり簡単な約束事に関しては、秩序を印章だけではなく、デジタルに移行しようよ。
これまで全ての契約の秩序を印章が守っていた世の中から、本当に肝心な部分の秩序を守る役割に変わっていくのでしょう。
今日発表の日経新聞のニュースでは、会社設立などの商業・法人登記や不動産登記の申請、自動車の登録などの手続きは引き続き押印が必要。
もちろんそこには個人の実印や銀行印も含まれます。