ここでは、2020年夏頃にマスコミを中心に騒がれていた押印廃止について解説します。
かなりセンセーショナルに報道されていましたが、今ではすっかり鳴りを潜め何事もなかったかのようです。
とはいえ繰り返された報道によって、いまだに誤解されている方も多いので、押印廃止で言われていた内容をまとめ、かつ現在印鑑を必要とされる場面までご紹介していきますので、ぜひ参考にしてください。
日本ではこれまで同様、印鑑が必須です。
2021年7月2日に公開したブログですが、2022年7月2日に大幅リライトしました。
そもそも押印廃止と言われ出したきっかけはテレビのワイドショーだった
コロナ禍で出社をしないといけない、その理由をワイドショーで待ち行く人に尋ねた際に「これからハンコを捺すために出社ですよ」の発言をきっかけに、ハンコをなくそうと叫ばれ出したようです。
それまで日々の生活の中で強制されていた捺印に対する違和感と合致し、そこに某大臣が乗っかり、政府を上げての大号令になりました。
また社会インフラがデジタル化されることで大きな利権が動きますから、それらの企業も潤沢な資金を元に後押しし、マスコミも視聴率が稼げるため大々的に報道を繰り返しました。
ところが実際には、最も肝心な部分は報道されていませんでした。
押印廃止は、印鑑証明が必要なもの、銀行印が必要なもの、契約書などを除きます
ハンコには色々な役割と使い分けが存在します。
実印:役所に登録し、契約の際に印鑑証明書を添付して意思の担保(内容を認めましたよ)に捺す印
銀行印:銀行などの金融機関でお金の出し入れに捺す印
認印:その他の雑印と言われる、登録をしていない印
当時、押印廃止と言われていたのは、その中の認印です。
認印=登録していない印ですから「日本においてのサインと同じように、照合ができない」ということは、仮に問題が起こったとしても大きな証拠になりにくい側面があります。
つまりここには「あまり重要ではない印は捺さなくてもよい」の意味が含まれていましたが、さも全ての印がなくなるような報道がなされていました。
一方、この押印廃止はそもそも社内(役所内)の取り決め変更の意味合いが大きかったのに、わざわざ大々的に報道されていました。
詳細は各社や各役所によって異なりますが、それまで膨大な数の認印が捺されています。
1枚の書類に対して、関係した全ての人が分かるように、認印を捺すという流れです。
「そこの捺す印って本当に必要なんだろうか?」→「相互確認ではなく、一方的な通達にまで押印が必要か?」→「内の会社では、必要のない押印は廃止しよう」
これが押印廃止の正しい意味でした。
また「その程度ならサインでいいじゃないか?」との報道も目にしましたが、実際に膨大な確認を必要とする場合「サインなんて大変だからハンコの方が簡単だ」との意見もありました。実際にそれらの意見に対して当時の大臣は「なんとなく捺しているだけの認印、は廃止しよう」と明確に、HPにも掲載されいます。
このうち印鑑証明が必要なもの、銀行印が必要なもの、契約書などを除き、原則廃止するように各省に求めています。
わざわざ明記するのにも当然理由があります。
なぜなら
「印鑑証明が必要なもの」=実印は、民事訴訟法 第228条4項で定められています。
「銀行印が必要なもの」=銀行印は、銀行ごとのルールで成り立っています。
「契約書」は、契約を結ぶ当事者同士での取り決めになります。
ということは上記はいずれも大臣に権限はなく、そのため大臣の独断で決定できる内容ではないからです。
以上が押印廃止を報道されていた内容についての詳細でした。
また実際にその後も、大臣発言以外の場面でも押印が必要となっていますので、ここからは具体例を見てきましょう。
押印廃止後でも印鑑が必要な場面
実際に生活をしていると、まだまだ必要に迫られて印鑑を捺す場面もあります。
私自身の体験も含めてご紹介します。
PC更新の際のネットバンク
まずは私の実体験になります。
Windowsって、突如しかも忙しい時に限って更新がはじまりますよね?
そして更新が始まると当然、ネットバンクも動かせません。
しかもそんな時って、ネットバンク受付ギリギリの時間帯だったりします。
かと言って1台1OS限りの契約ですから、他に手段がない。
締め切りは明日。
ネットバンクの支払い手続きは翌日。
さてどうしよう?
銀行印持参で、銀行にGOです。
困った時に役に立つのは、やはり今でもアナログ(印鑑)です。
保険の更新
こちらも私の実体験になります。
店舗の火災保険の更新のため、窓口にお邪魔しました。
私としたことが、ついうっかり法人印を持参するのを忘れてしまいました。
「であればサインだけで大丈夫」とこことでしたが、契約の更新だからサインだけじゃNGなんじゃないの?
そんな考えもよぎりつつ、言われるがままにサインをして帰りました。
ところがやはり後日、連絡がありました。
先日、ご契約を頂いた火災保険の件です。
申込印として社長の自署を頂きましたが、やはり法人契約のため法人印が必要でした。
本日、郵送にて申込書がお手元に届くと思います。
お手数をお掛けして誠に申し訳ございませんが、2箇所に捺印後、同封されています返送用封筒にて弊社宛に郵送して下さい。
宜しくお願い致します。
上記は契約に該当するため、印鑑が必須なんです。
役所で書類を訂正する際
こちらは知人から、教えてもらった出来事です。
原文そのままに。
私も常に印鑑は持ち歩いているのですが、たまたま忘れてしまった事がありまして。
印鑑廃止の動きがありますが、認印がないとかなり不便だと感じました。
市役所、補助金の事などで用事があり出かけたのですが、訂正する場合。
印鑑がないと書き直すか、後日また行かないとならない事態に・・・。通常、実印や銀行印は特別な事がない限り持ち歩きたくないかと思います。
今は役所などで、申請する書類の種類などでは確かに印鑑が無くても大丈夫ですが、訂正するには印鑑が必要で。
まだまだ印鑑がないと色々不便だなと感じました。
これは書類の訂正印=認印です。
つまり誰でも勝手に書けるサインより、印鑑の方が証拠能力が高いことの証明になります。
では次に、なぜこれらの印鑑が必要なのか?
つまり押印の意味を解説してきます。
日本においての押印の意味
まず押印の意味を改めてまとめておきます。
- 相互の意思確認
- 偽造の罪が重くなる
突き詰めるとこの2つに集約されます。
相互の意志確認
大前提として押印の意味は、「相互の意志確認」です。
印鑑を必要とする場面はいずれも、相手がいる場合です。
そもそも契約は、口約束だけでも成立します。
ところが人はそれを、都合が悪いと忘れたり、誤魔化したりすることもあります。
そのため契約を交わし、その証として印鑑を捺します。
そして金額が大きい場合、間違いなく本人が捺した証明が必要になるため、印鑑登録している実印を相手に求めます。
一方で、そこまで破棄された場合の損失が少ない文書に関しては認印だけで済んでいます。
つまりいずれの場面でも押印の意味は、相互の意志確認であることが分かります。
偽造の罪が重くなる
意外に知られていないのが、こちら。
印鑑を捺しいない文書に対して、印鑑が捺してある文書「有印私文書」は偽造の罪が重くなります。
刑法159条1項、2項
他人が押印し又は署名した権利、義務又は事実証明に関する文書又は図画を変造した者も、前項と同様とする
これが役所に書類を提出する際に、印鑑を求められる大きな理由だと考えられます。
つまり証拠能力として印鑑を求められているのではなく、偽造されにくくするのが目的。
そのためサインではなく、印鑑なんですね。
その証拠として最近では役所から届く文書に、上記のような「公印省略」が増えてきました。
これが押印廃止と言われた結果です。
一方的に送る(契約ではない)文書に角印を捺す必要がない。
元々は偽造をされにくくするのが目的だった印が、いつの間にか捺さないとダメと義務化になったと思われます。
理由として考えられるのは、役所の文書の多さです。
1つ1つ「これは重要なのか?それともさほど重要ではないのか?」を検討するより、全てに捺した方が間違いない、と簡略化ではないかと。
前述した押印廃止後も残る印の具体例にある訂正印も、これが理由になります。
一方的に送る文書ではなく「本人が提出する書類の訂正」、どこにも登録していないサインでは改ざんが疑われますから、印鑑。
つまり証拠能力ではなく、偽造の罪を避けるための印鑑だと考えられます。
サインではダメなのか?
「欧米のようにサインでいいのでは」との意見もよく耳にします。
大前提として、サイン文化の欧米ではサインを登録します。
また同じサインを書き続けられるよう、小さい頃から練習をします。
これはアルファベットという限られた数で、また単純な文字だから成り立つと思えます。
一方日本は漢字です。
また複雑な文字ですから、同じように再現するのが難しいのが特徴です。
だから再現性の高い印鑑が誕生し、契約の利便性を担っていたそうです。
欧米ではサインが重要視される理由はこの通りであり、その名残がクレジットカードにあるように思えます。
日本ではカードの裏面のサインと同じサインは求められませんし、仮にカードが漢字でサインがアルファベットと異なっていても特に問題はないようです。
ここでわかることは、日本においてのサインは、ほとんど重要視されていないことです。
逆に全てをサイン文化に移行するのであれば、漢字をなくすとか、漢字で再現できるまでトレーニングを積むなど、かなり大きな問題が起こることが予想されます。
最後に
こちらで解説した通り、これからも印章は使われます。
最近では忘れつつあるかもしれませんが押印廃止という流れがあり、印章業社だけでなく、印を大事にされる方にも大いに影響がありました。
かなり大きな出来事でしたが、裏側を知る人間として、マスコミのコメンテーターの無責任さを感じる出来事でもありました。
そのためこちらでまとめてみました。
極端な言い方をすれば結局、紙がある以上は印鑑が必要なんです。
デジタル化デジタル化と、さもアナログが悪いように言われてますけど、全ての契約をデジタル化することは、かなりの問題が予想されます。
またデジタルはいざという時に機能しない脆弱性も兼ね備えます。
そのため最後の砦は、ご自身の管理下においておけるアナログが安心なのかもしれません。
普段は便利なデジタルに頼りたいですが、一番大切なことは自分の手の内に収めておきたいものです。
最後に父の言葉で締めたいと思います。
小さな印章、大きな役目
追伸
最近のテレワークが進まない理由においてワイドショーの主流は、「ハンコを捺すために出社しないといけない」から、「データを会社から持ち出せない」に移行しているようです。