先日、宇都宮でもご高名なお寺から、御朱印に使われる落款印のご注文をいただきました。
もちろんそのようなご依頼は珍しいことではないのですが、今回は特に驚きの連続でした。
漢字の力を再認識させられるというか・・・
その方は鈴印オリジナル書体誕生のきっかけの人だった
振り返ると非常にご縁の深いお客様。
なぜなら、そのお寺の実印と角印は先代からのご依頼で、私の親父が手がけたものだからです。
お寺の格式もそうですが、ご注文の内容も凄かったので、珍しく親父が悩んでいたのを思い出します。
特に散々考えていたのが角印でした。
理由は、お寺の角印と通常の角印が一緒でいいのか?とのこと。
当時の私にはその理由がよくわかりませんでしたが、今なら何となく感じられます。
それはお寺と落款の親和性、つまり角印だけど落款みたいな雰囲気を考えていたんでしょうね。
以前もブログに書いていますが、鈴印にはオリジナルの書体「小篆」があります。
そのきっかけは同じように親父が「女性の名前に適した柔らかい文字の印」を提供したかったから。
篆書や印相体は実印らしいけど、女性のお名前で柔らかくしなやかな雰囲気を求める方には、少々強い印象。
なので落款印をモチーフに登録印として使えるようアレンジを加えたのが、当時「落款風実印」と名付けていた現在の小篆でした。
親父が悩んでいる時は、必ず面白いことが起こりました。
そして出した結論は小篆とは真逆の、篆書よりも角張った文字。
ヒントはお寺の格子窓だったようです。
この文字は今でも私が継承していますが、彫刻の際にイメージするのは、篆書+隷書。
ここまで書いてて申し訳ないのは、表に出せる印影がないため実際にご覧いただけないことですが、何となく肩の張った篆書をイメージしていただければと思います。
いずれにしてもこの時に普段は表に出さない、鈴印オリジナルの篆書が誕生しました。
シンプルだからこそ厄介
ご注文の際のご依頼内容は非常に明快でした。
- 御朱印帳に捺す落款印が3つ欲しい
- 恥ずかしくない印が欲しい
- 内容は全てお任せします
まあ作り手としては、一番厄介なご依頼ですが、、、汗
お寺の名前って、上に色々付きますよね?
〇〇宗〇〇山〇〇寺
って感じで。
それぞれの落款でしたが、全く同じ雰囲気にしたんじゃフォントで作ったようになってしまう。
かと言って、全く変えると今度は整合性がなくなる。
なので1つ1つでも存在感があって、かつ全部押してもまとまりがある。
そんなことをイメージしていました。
結果的には、それぞれの文字からインスピレーションを受けた、自然な雰囲気に任せた方がいいだろうと。
漢字にはそれぞれ意味がありますし、お寺って特にその意味にこだわる業種だと考えたからです。
もちろん彫刻の際に、1つ1つの漢字の意味を調べて、なんてことまではしませんでした。
ただ単に漢字から受ける全体の印象、例えば個人の氏名で何となくその人の人となりが浮かぶようなイメージです。
まあデザインが固まるまでかなりお時間をいただいちゃいましたが、自分なりに納得のいく仕上がりになりました。
印を彫るときにいつも思うことですが、お客さまがご満足いただけるかは、実際にお渡ししてみるまで分かりません。
でも最低限、自分が納得できる印を彫ろう。
お引き渡しの際に全てがつながる
完成してお渡しの際にしばらくお話をさせていただきましたが、ここでも驚きの連続でした。
まず落款を作ろうと思ったきっかけを教えてくださいました。
私どものお寺は、子孫繁栄の御加護があると言われています。
そのため、お嬢さんがご結婚されたんですが早々に体調を崩されてしまい、子宝に恵まれるよう参られた方がいました。
そして記念に御朱印が欲しいこのことでしたが、残念ながら用意をしてなかったんです。
実は以前、大変申し訳ないんですが、別のところで印を作りました。
その仕上がりに本当がっかりとういか、後悔してしまって。
今回特別な想いを持たれた方に捺したいので、鈴印さんにまたぜひお願いすることにしました。
まだ印影などをご覧いただく前の話ですよ。
結構緊張してきましたね。
ご納得いただけるかと。
その後、印影をご覧いただき、このようにお話ししてくださいました。
ありがとうございます。
それぞれの言葉の意味と仕上がりの雰囲気が見事に合致していて、正直鳥肌が立ちました。
なんでわかったんですか?
〇〇は男性的な強い意味があり、〇〇は女性の名前なんです。
そしてお寺の名前と落款の雰囲気が見事にマッチして驚きました。
前述した通り、彫刻の際に漢字からのインスピレーションを素直に感じて表現しただけなんですが、改めて漢字の凄さを感じる出来事になりました。
続けてこのようなお話をしてくださいました。
先ほど鈴木さんから、文字とそこから受けるインスピレーションのお話を伺いましたが、よくわかります。
私も仕事で戒名をお付けします。
その時は産みの苦しみじゃないですけど、毎回本当に悩みます。
そして結果的にご家族に「なんでわかったんですか?」なんてお話をいただけると全てが報われるような気がします。
中でも驚いたのは、ある1文字が大親友の名前だったそうです。
もちろんそこまで意図したわけじゃないのに、結果的に故人がその文字を私に与えてくださったんです。
鈴木さんはそれを彫って形にするわけですよね。
素晴らしいお仕事です。
ぜひ長く継承していってください。
最後に
漢字の良さを再認識する1日になりました。
1つ1つでも意味がありますし、それが結合することでまた別の意味になる。
そして込められた意味は、全くご縁のない人間にもふとした瞬間に通じる。
多分みなさんもお子様の命名の際に、すごく考えたと思うんです。
その人間が一生背負っていくのが名前ですから。
でもそこに込められた意味は、必ず本人以外の人にも伝わる。
つまり私たち日本人は、漢字を通して想いを伝えているんですね。
漢字だけが持つ力、日本人であることを誇りに思う出来事になりました。