「印鑑の材料として一番のおすすめは?」と聞かれれば、私たちは迷わず「象牙」と答えます。
その理由は印鑑の役割でもある、捺印が綺麗で使うほどに良くなる点、丈夫である点、手彫りができる点など、必要なすべてが高い次元で揃っているからです。
また手前味噌ではございますが、私たち鈴印は路面店での象牙販売本数がどうやら日本で一番多いとも聞いています。
そんなこともあって鈴印といえば象牙と思っている方も多いようです。
とはいえ創業当初から象牙が主力だったわけではないようです。
では一体いつから?どんなきっかけで象牙をオススメするようになったのか?
今回のブログでは、そんな歴史を振り返ってみたいと思います。
鈴印が象牙に力を入れはじめた理由
実際に私自身が入社する前から、鈴印で取り扱う印材は象牙がメインでした。
併せてマスターピースにも掲載していますが、多数の貴重な象牙がストックされています。
先日ふと疑問に思ったのですが、なぜここまで象牙に力を入れてきたのか?
そして拡充させてきたのか?
そのルーツを母に聞いてみたところ、非常にシンプルな回答が返ってきました。
お父さんが象牙に惚れ込んだからだよ。
言ってたのは
「象牙は手触りも抜群にいいし、適度な重さがあって重厚感もある。ハンコの役割は綺麗に捺せることだけど、抜群に良いんだよ。それにやっぱり彫ってて一番気持ちがいいし、いい音がするし、他のどの材料よりも細かい細工ができるんだよ」
って象牙の魅力を語ってて、それをそのままお客さんに伝えると、みなさんそれに共感して買ってくれたって感じかな。
そして象牙に惚れ込んだ親父は、コレクションも始めたそうです。
自分が欲しいもの。
他では手に入らない珍しいものや、一点ものなどの希少品です。
販売するためのものではなく、自分のものとして。
良いものがありそうと聞きつけると、わざわざ足を運び、見つける度にまとめて購入していたそうです。
そして大切にするために専用のセラーまで用意して、綺麗な状態を維持し保管されていました。
なのでおかしな話ですが、そんな希少品をお客様に自慢して、購入されると逆にがっかりしていた、私自身そんな姿もよく目にしていました。
現在マスターピースとして販売しているそれらは、そんなルーツがありました。
象牙を取り扱う責任
私自身の目線で言うと、象牙を主として扱うことは、それに伴って大きな責任を感じていたのも事実です。
職人時代で言うと、象牙はなかなか彫らせてもらえませんでした。
数年経ってようやく任され、すごく緊張したことは昨日のように覚えています。
それから数多く手掛けさせていただきましたが、そのうち象牙の品質もなんとなくわかるようになってくるから不思議です。
大きな転機はやはり鈴印に戻ってから。
前述した通り、親父の秘蔵の品々ですから、緊張感も桁違い。
もちろんお客様に説明するための知識も必要ですが、まだまだ見極める術がない。
そのためメーカーさんにお邪魔して、キメの違いやハードとソフトの違いなど、実際に見て触れて違いがわかるようになってきました。
その後もおかげさまで彫る機会が多かったため、気がつけば触れた瞬間にある程度の見極めができるまでになることができました。
またこうして発信をし続けていたり、同業者の集まりに積極的に参加することで、今お願いしている日本でただ1人手でとる職人さんとも出会うことができました。
彼との会話の中では毎回大きなヒントがあったりもしますし、私自身もそれまで以上に象牙に愛着を持つこともできました。
実際にこの人がとったもの、その事実は大切に扱うことにもつながります。
そんな折、今から数年前ですが、突然象牙を使うことが悪いと言うようなニュースを目にするようになりました。
私自身誰よりも象牙の情報を持っていると信じてましたが、それを機にさらに深く広く情報を集め、専用サイトを作ったのは、自然な流れだったのかもしれません。
最後に
ふとした会話から始まった鈴印で象牙をメインに取り扱うことになったルーツ。
それは商売の基本が詰まっているように感じました。
自分が惚れたものを売る。
売りたいから仕入れるんじゃなく、欲しいから仕入れる。
それに共感していただいたお客様に買っていただく。
気がつけばこの思いは今も、脈々と続いていることに気がつきました。
デッドストックとして仕入れる象牙も、そういえば私が気に入ったものだけです。
そしてそれらの象牙に共感していただいた方に購入していただく。
無意識の行動でしたが、改めて自分の腹に落とすことができました。
そしてみなさまには、私たちが象牙に込める思いと責任感、そして象牙と共に歩んできた歴史を通じて、その価値を感じ取っていただければ幸いです。
象牙の取り扱いには多くの課題と責任が伴うこと、またそれを理解して適切に対応することで、象牙の美しさと価値をこれからも大切にしていきたいと考えています。
そして最後に、象牙を通じて繋がる人々の熱い思いや、その手に触れるたびに感じる温もりが、これからも多くの人々に伝わっていくことを願ってやみません。
私たちは象牙の魅力を伝え続けるとともに、その責任を全うすることを再認識することができました。