「モノ」を作り出す人が最初に行うのは、書き出す作業かと思います。
頭の中にあるイメージを、現実のモノにするための最初の作業。
ここから全てがはじまるだけに、モノを作り出す人は共通して「ココが一番肝心」っておっしゃいますね。
また、これだけデジタルデバイスが整っている世の中ですが、最初のイメージの書き出しは紙にペンって方も多いようです。
原始的だけど紙とペンの感触が想像力を掻き立てるんでしょうかね?
ちなみに私自身もかなりデジタルに依存している人間ですけど、不思議とこの時だけは紙を探します。
そしてこの工程は産みの苦しみを伴いますから、一番大変でもあり、でも一番楽しくもあったりするわけです。
全てはラフ描きからはじまります
一番難しく、また終わりが見えないのがこのラフ描き。
適当に思いつくままに書くだけに、腕の違いがなんとも出ちゃう箇所。
親父と一緒に仕事をしていた時も「なんでラフなのにこんなに完璧なんだ」と毎回驚いたもんです。
そして親父がいなくなって一番苦労したのもここでした。
親子でも作風は変わりますし、そもそも力量が違いました。
一般的には作る工程に目を奪われがちですから、はんこに関しても彫る技術の差が大きいと思われています。
もちろんその彫る技術も差がありますけど、私の私見では10年も鍛錬すれば一般の人にはほとんど区別がつかないほどの超絶レベルになっています。
だけどこのラフ描きだけはそうもいかない。
表現方法には決まりも正解もないですから、毎回その時々の最高に挑みます。
そして文字に関しては、同じ組み合わせってほとんどないんですよ。
だから過去の実績もあまり役に立たない。
また当然飽きも出てきますし、良い作品を見るとさらにイメージが膨らんで、作風が大きく変わったりもします。
上の写真や落款を彫る時のラフ描きですけど、最近鈴印でも人気のSK印相体もこの応用。
最初に元になる篆書を書き出して、そこからスクエアに落とし込む。
これも数稽古をこなして、今では最適なバランスになるような法則で最初から書いてますけど、それもまた時々で変わって唯一無二を守っています。
篆書は同じ「鈴」でも1種類じゃないですから、そんなコトが可能になるんですね。
つまり作り出す一番最初は、完成形がどうであれ、ラフ描きからはじまっています。
ラフ描きをマニュアル化すると量産可能になる
何かを作り出す際に一番時間と労力が掛かるのがラフ描きって最初に書きましたけど、逆に言うとここをマニュアル化すると価格も抑えたりすることが可能です。
自分のイメージでは、例えばセントラルキッチンがそれに近いんでしょうか?
メニューを統一して、同じように作れる仕組みを作り、量産可能になって、結果コストを抑えられる。
はんこも一緒ですね。
一番時間が掛かる、文字を産み出す作業をマニュアル化したのがフォント。
「鈴木」とキーボードを叩くだけで文字が完成します。あとは機械に材料を挟んでEnterキーを押すだけで完成。
文字を統一して、同じように作れる仕組みを作り、量産可能になって、結果コストを抑えられる。
じゃあなぜやらないのか?
そこにお店ごとの価値観があります。
早く安く食べたい人もいれば、ゆっくりでも美味しく食べたい人もいる。
お客様の様々な価値観に合わせるためには、お店側の様々な提供方法がある。
追求するベクトルが全く違いますから、逆にそれぞれの長所が出てきて、お互いにまた進化します。
つまり質を追求するか、数を追求するか、それにも正解はありません。
最後に
なんでこんなコトを書いたのかっていいますと、1本の動画を見たからでした。
それがこちら
まあ車の場合は量産しますけど、安くて動けばいい需要と、人とは違うのが欲しい需要は全く違う。
そして価格とデザインってある程度比例していますしね。
さらに自分流にカスタムなんかしちゃったりすると、唯一無二な分恐ろしく高くなったりもしますよね。
ハンコの場合は絶対的な条件として、同じモノを2つ作ってはいけないルールがあります。
だから常に新たなデザインを作らないといけない。
だからこそ唯一無二であったりもするわけです。
近頃は街中でも「素材に徹底的にこだわっています」と「技術にこだわっています」とかののぼりを見かけますけど、モノを作る人間からしますと、一番こだわっているのってラフ書き。
だから鈴印は、ラフ描きにこだわっています。