いきなり「とちぎけん」って漢字で書けって言われて、どれだけの人が書けるんでしょうかね?
問題は「とち」の字ですね。
私自身はここで生まれたので子供の頃からことあるごとに書かされ、もちろん書けます。
ただよくよく考えてみると、住所意外に書いた記憶はなく・・・
ちょっと調べてみても、出てくるのは栃木とか栃の木とか、やはりこの辺りの地名に由来するものばかり。
そりゃ書ける方がおかしいかもですね^^;
そんな「栃」ですが、先日会話の中で「ダジャレでできたらしいよ?」と耳にしました。
マジで!?
ちょっと調べてみました。
「栃」の字の成り立ちはダジャレだった
この字の厄介な部分は「つくり」の部分かと。
なんか同じような文字が重なっていて、しかもあまり見かけない構成だったりもするので、書き順だけでなく角度なども迷っちゃいます。
でも成り立ちを知ると、そんな疑問も解消するかもしれません。
こんな時に参考になるのは白川静さん。
今回は、常用字解を引用します。
栃
国字(日本で作った漢字)。「とち、とちのき」をいう。
落葉高木の名で、山地の沢沿いに生える。種子から澱粉をとり、栃餅などを作る。
字はまた国字の杤に作る。
杤は、木に万「十(と)「千」(ち)、千の十倍」をそえた字であるという説がある。
とちの中国名は橡である。常用字解/白川静より
ダジャレでした♡
ここだけを読むと「なんで橡が杤になった?」のかとか「なんで杤が栃になった?」などの疑問が残るので、もう少し調べてみました。
で、私なりにまとめると以下のようになります。
1.元は中国の「橡(とち)」
2.日本語の漢字の中には、中国の漢字をベースに作られた和製漢字「国字」があり、その場合は「杤」
3.「杤」の由来は、「木に(十と千で、千の十倍)で万」
4.「橡」と「杤」と、新たに「栃」が混在していた(万の上に「ノ」「払い」と2画増えたのかは不明)
4.明治12年(1879)に「栃」に統一
【参考資料】
常用字解
ウィクショナリー
とちぎ豆知識「とちぎの由来」
長い歴史の中で作られ、今でもちょっとづつ変わっている漢字ですから、明確じゃない部分があるのも仕方なしです。
とはいえ、十と千をそのまま素直にしていたら?万の上の垂れ2画がなかったら?なんて考えると、こんな可能性もあったのかもしれません。
とち。
なんか文字としては違和感がありますけど、「栃」みたいに、横線の数がわからなることはないんじゃないのかな?
なんてことを思う次第でございました。
「栃」は国字だから、正しくは篆書は存在しない
ここからは印章専門店ならではの、ちょっとしたトリビア。
篆書と国字の関係についてです。
印鑑に使われる難しい漢字の篆書。
こちらは中国の秦の始皇帝が統一した文字で、印鑑の文字は基本的にこの篆書がベースになっています。
最近流行りの印相体なども全てのルーツは篆書になります。
国字はそもそも、中国に存在しない事物や通常の漢字では表現しにくい観念を表すためにつくられたもので、例として「峠(とうげ)」「畑(はたけ)」「辻(つじ)」「凩(こがらし)」「凪(なぎ)」「躾(しつけ)」「鰯(いわし)」などがあります。
そして日本では常用漢字表や、人名用漢字表に記載されている漢字であれば名前に使え、当然その中には国字も含まれています。
つまり篆書の方が古く、国字が後からできたのに、印鑑登録する篆書に国字があるって不思議ですよね?
その問題を解決したのが、篆刻字林をもとに発刊され、私たち印章専門店や役所などで使用している「新常用漢字印章字林」
その中に「印章新体」として現代にアップデートしています。
篆書には出所のない一部の制定字体について、既にて定着していると思われる篆書の偏や旁の部分を生かしながら、篆書風に制定字体に近づけた作字であります。
新常用漢字印章字林/印章新体についてより
栃に関して
・(国字)の記載あり
・印篆の例は白紙
・印章身体の例に文字ありみ
つまり「栃は国字だから篆書に文字はなく、印章新体として作られている」
私たちは文字デザインを考える際に、このような情報を認識して作っています。
印鑑の歴史は長いので、このような方法で登録のルールを設けているんですね。
最後に
以上が「栃」の字の成り立ちになります。
ただの暗記だと忘れそうなつくりも、意味を理解すると一発で覚えられます。
栃=きへん+ノ+はらい+「十(と)×千(ち)=万(まん)」
やっぱ覚えられないかもしれない♡
私も仕事柄、文字の意味や成り立ちを調べることも多いんですが、入門編として最適です。
ご自身のお名前を調べてみても面白いかもしれませんね。