印鑑で苗字や名前を横書きに彫る場合や、昔からある横書きの看板などを見ると、右から左で違和感を感じる方も多いようです。
「私『田中』なんですけど、この印鑑は『中田」になってます」みたいな感じで。
ですがこれは決して間違いではなく、ちゃんとした理由があります。
またその理由は、日本のアイデンティティでもある言語(日本語)と大きく関係しています。
印鑑の篆書の文字や、古い看板が右から左に書いてある理由
写真は鈴印の旧社名「鈴木印舗」と書いてあります。
かの有名な篆刻家でもあり書家でもある関野香雲さんに書いていただいたものです。
ご覧の通り、篆書で右から左に書いてあることがわかります。
次に印鑑の文字です。
どちらも「鈴木」と彫ったものですが、額装同様、右から左です。
現代を生きる私たちからすると違和感を感じる一方で、どことなく歴史を感じたりしませんか?
その感性は正しいものです。
では早速その理由を説明しましょう。
そもそも漢字は縦書きでした。
例えば6文字を、3文字づつ2行で書く場合は、以下の順番で書きますよね?
4 | 1 |
5 | 2 |
6 | 3 |
これはフルネームなど4文字を2行で書く場合でも同様です。
3 | 1 |
4 | 2 |
右上から下に向かい、改行して、左上に行ってから下に書きます。
さて、ではこれが2文字だったらどうでしょう?
2 | 1 |
同じなんです。
つまり古い横書きが右から左の理由は
漢字は縦書きで書いていたため、右から左に改行しているから
本来は縦書きのみだったため、横長のスペースに書く場合は縦書きの改行とされていたようです。
そう言われて改めて額装を見てみると、縦書きに見えるから不思議です。
ね?
改行して見えますよね。
最後に
横書きが現在の主流である左から右に変わったのは、戦争が大きなきっかけになっているようです。
誤解のないよう補足すると、戦前から左から右で書く場面はあったようですが、戦後英語文化が入ってくるようになり、それに合わせて変わっていったとのこと。
確かに漢字やひらがなって、特に行書や草書は横書きでは綺麗に流れてつながりません。
漢字やひらがなを使う日本語は、そもそも縦書きの専用設計だったようです。
ひらがなは、ほとんどが下向きで終わる文字なのがその理由です。
下の文字に繋げることが前提になっています。
現在はフォントを並べるだけで文字は完成してしまいますし、そのような印鑑も増えています。
でもやはり漢字の美しさを表現できるのは、手書きに勝るものはないです。
なぜなら漢字を構成する線は、すべて円の一部を切り取った線のつながりだからです。
終筆から次の文字の起筆を目指して書くのが書です。
それを1文字づつ切り取った文字で、綺麗に繋げることなんて不可能ですから。
印鑑もそんなイメージも理解しつつ書いて彫っていきます。
もしあなたが今お持ちの印が右から左の横書きだったら、
「これは横書きじゃなくて縦書きの改行なんだよ」
なんてトリビアをぜひご家族に自慢してみてください。